第1章 甲斐の虎
「旦那、気前がいいねー。お嬢さんも粋な旦那に好かれたね」
アハハと笑う露店のおじさんの声でハッ!と我に返った
て、天女って…
さっきのことといい
何?この人??
この時代にもナンパする人いるの?!
「いえ、じゃあ勘違いですかね?
あ、私そろそろ帰らないといけませんので、これで失礼致します…」
赤銅色の瞳から逃れるように後ずさりすると、私は振り向きもせず一気に駆け出した!
そんな逃げ出していく乃々の後ろ姿をジッと見つめると
「また会おう…麗しの天女…」
軟派な男はフッと意味ありげに笑い呟いた。
猛ダッシュでお城に向かって走る!!
あの人!!なんなの?!
天女とか…天女とか…天女とかーーーーー!!!
歯が浮くような台詞をサラッとと言いのけて、嫌味なくスマートに支払いを済ませるハイスペック男子。
現代でも稀に見ない女垂らしなのだけは分かる
ぜぇぜぇ…
こんな走ったのいつぶりだろ…?
お城の門まで一気に走り、痛む横っ腹によろける身体を支えるように柱に手をかけた
「あ…!」
櫛!!
持ってきちゃった!!!
右手に握られた朱色の櫛
あの場から逃げることで精一杯で櫛を返すのを忘れていた。
どうしよう…
返しに行く…?
来た道を振り返りしばし思案する
うーん…
『君のような天女…』
あの色めいた瞳を思い出すだけで胸がざわつく
うん!
やっぱりやめよう
一人で行くには危険な気がする
いつか会えたら、そのときに返そう!!
うんうん。と自分に言い聞かせ櫛をそっと着物の合わせに閉まった