第1章 甲斐の虎
「可愛いお嬢さん。これ気に入ったのかい?」
「え?」
「店主。これを一つくれ。」
「は?」
「これは俺からの贈り物だよ。お姫様…」
突然のことに呆気にとられる私を無視したまま、その男(ひと)が店主に支払いを済ませると私の手をおもむろに取る。
「俺を恋に落としていった責任を取ってくれないか?」
そして手渡された櫛と一緒に、私の手を握り締めた
「い、いえ。あの!!見ず知らずの方にこんなことされては困ります!!」
知らない人から物をもらってはいけません。
知らない人に着いて行ってはいけません。
子供の頃に習った
「いかのおすし」
が脳裏をよぎる
「ほんと!結構です…から…」
握られた手を無理矢理ほどきその男(ひと)を見上げた
あれ…、この人…どこかで…?
「あの、どこかでお会いしたことあります?」
口元に笑みを浮かべながら、艶っぽい赤銅色の瞳が私を捕らえる。