第11章 ゼムアの願い

「十四松!矢をつがえて！」

「チョロ松兄さん……!!分かった！」

十四松が矢をつがえ、チョロ松がそれに手を添える。

「一緒に、射るぞ……!!」

「ぐすっ…。うん！」

「げひひひ!何をするつもりだ？!まさか兄を殺す気か？!出来るのか？出来んよなぁ？げひゃひゃひゃ!!……早く!!俺はもう、駄目だ。そうだなぁ、駄目だなぁ！!げひゃーっひゃひゃ!!」

顔も頭脳食い変わりつつある。完全に変わるのも、時間の問題だった。二人の脳裏に後悔がよぎる。あの時頭脳食いを仕留めていなければ、こんなことにはならなかったのではないか、と。だがいずれにせよ、自我を食われたゼムアが頭脳食いになることは、避けられない。

「頼む、チョロ松。十四松。森エルフ王子としての誇りを持ったまま、死なせてくれ」

「ううっ!!兄上ーーー！!」

「師匠！!ご教導、ありがとうございまじだーーー!!」

二人が放った矢が、ゼムアの額を貫く。

満足そうな笑みを浮かべ、ゼムアは絶命した。

「………うわぁあああああ!!兄上ぇえええ!!」

「じじょぉおおおお!!」

二人はしばらくゼムアの亡骸を抱きしめたまま、泣き叫んだ。そして涙を拭い、廊下にいるカラ松に言った。

「カラ松」

「お、おぅ。どうした、ブラザー」

「兄上を、熱線で焼き尽くして…!」

「えっ？!そ、そんなことできるわけg」

「頼む！恐らく今の姿のまま、お墓に入りたくはないだろうから」

「…………分かった」

そこへ行くとカラ松の目には、ゼムアはゼムアのままで横たわっているようにしか見えなかった。

「ゼムア…。ほんの少ししか会ってないが、あなたは立派な森エルフの王子だった」

目を開くと、あっという間にゼムアは跡形もなく消えた。

「おそ松、行くぞ」

「う、うん。あのさ、カラ松。おぶってくれない？」

「どうした？」

「こ、腰が抜けちゃって…」

「はぁ？何をやってるんだ、リーダー。しっかりしてくれ」

カラ松はおそ松をおんぶしながら言った。

「はぁ？!こんな時だけリーダー扱いするの、やめてくんない？!」

「何を言ってるんだ、おそ松。お前はいつでも俺たちのリーダーだろうが」

「そうだけどさぁ！抜けちゃったもんは、しょうがなくね？!」

廊下に出るとチョロ松と十四松が、カラ松に走り寄った。

「ありがとう、カラ松」