第11章 ゼムアの願い
「ありがとう、カラ松兄さん」
「ノープロブレムだ、ブラザーたち。…辛いだろうに」
「でも、兄上は誇り高い森エルフ王子のままでいられるんだ」
「そうだね、チョロ松兄さん」
「で、おそ松はどうした?」
「腰が抜けたんだと」
「え…?マジで?」
「いやー、俺もね?まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかったよ?うん」
チョロ松と十四松はゴブリンの街を振り返り、しばらく考えた。その様子に一松が声をかける。
「大丈夫?」
「うん。悲しいけど、これでよかったんだと思えるから」
「そうだね、あのままの方が、もっと辛いよ」
「この街、なくした方がいいと思う」
「一松兄さん…」
「一松…。そう、だね。誰かが迷い混まないとも限らないし。てか、入り込まれるの、嫌かも」
「……やったれ、クソ松!」
「…………俺の後ろにいろよ?」
おそ松を背中から下ろし、廃墟となったゴブリンの街を見る。
「この街は、あまりにも悲しすぎるぜ…。オンリーロンリネスタウンよ、永遠に眠れ。願わくば次の世に、幸せであらんことを。ゴブリンたち、そしてゼムア。ここに約束しよう。お前たちが安らかに眠れるよう、平和な世界にしてもらうことを」
「っるせぇぞ、とっととやれクソ松!」
「んぎゃ!はひ!」
一松に背中を蹴られ、慌てて目を開く。石造りの物は無理だが、木製の物は焼き尽くせた。
「すまん、これが限界だ」
「うん」
「帰りに寄って、花を手向けようよ」
「そうだな」
「俺、ちょっと羽ばたいてみるわ」
おそ松がロック鳥になり、羽ばたく。すると熱線でダメージを受けた石造りの建物は、ガラガラと崩れた。
「この方がいいっしょ?」
「ありがとう、おそ松兄さん!」
「恩に着るよ、おそ松」
ゼムアとの悲しい再会と永遠の別れをしたおそ松たち。
「なあ、十四松」
「あい」
「なんでお前、いつも眉間を狙うんだ?」
「眉間の奥に何がある?」
「ん?…脳、か?」
「うん。頭の場合、頭だと思ったら胴だったってこともあるけど、眉間だとそこに脳があるからね。相手が少しでも苦しまずに死ねるように、そこを狙うんだ」
「なるほどねぇ」
「優しいな、十四松は」
「えへへ。兄さんたちもみんな、優しいよ」
屈託のない笑顔を見せる十四松。だがその目には、かすかに光るものがあった。