第1章 ふわり、舞う
「学校、遅刻しない?」
「大丈夫。そっちは?」
「私も大丈夫。気づいて戻ってきてくれたの?」
「いや…。何かしゃがみこんだまま動かねーから、気になって」
「そうなんだ。ありがとう」
「舞、ちゃん…は」
「?」
一瞬口を噤んでからチラッと私を見たあと、ユキくんは続ける。
「ハイジの彼女?」
え?私が?ハイジくんの?
「彼女?何で?」
「いや、だって仲良さそうだし。ハイジが女と楽しそうに話してるとこなんて、あんま見たことねーもん」
「そんなんじゃないよ!私がハイジくんみたいなイケメンの彼女なんて!」
「ふーん。違うんだ。つか、イケメン…?うーん、まあそっか。顔はイケメンの部類に入るのかもな。だとしたら、ハイジのは残念イケメンってやつだ」
「残念イケメンって?」
「行動がヤバすぎ。俺が走るの拒否ってクラブに入り浸ってたら、ジャージ姿で連れ戻しに来たんだよ。頭おかしいだろ?終いには、俺に付き合ってハイジもクラブ通いするって言い出して。走るのに付き合わせるだけじゃフェアじゃないからってさ」
「それで、根負けしたの?」
「…別に。負けてねぇ。保護者みたいに付いてこられたらウゼェから、譲歩して走ってやってるだけ」
「そうなんだ」
ハイジくんの熱意はすごいけど、ユキくんもきっとその気持ちをわかってるんだろうな。
じゃなきゃ、こんなに朝早くから走ったりしないよね。
「ハイジくんの夢だったんだよね、箱根を目指すのは」
「……」
「10人揃ったって、すごく嬉しそうにしてたの」
「よく見てんだな、ハイジのこと」
「うちのお得意さんだからね。でも、今日みんなと会ってみてわかった気がする。ハイジくんは誰でもよかったわけじゃないんだよ。きっとこの10人だから、意味があるんだと思う」
「……どうだかね。ハイジの考えてることはよくわかんねぇよ。まあ、やるだけやってダメならあいつも諦めるだろ。それまでは仕方ねぇから付き合ってやるさ」
「 "クールに見えて情に厚い奴" 」
「え?」
「メンバーの一人に、そういう人がいるって言ってた。それってユキくんのことなのかも」
「……」
ユキくんは照れくさそうに鼻の頭を掻いて、黙ってしまった。