第1章 ふわり、舞う
毎年この季節に満開になる桜並木。
電車の走る高架に、遠目には私が通っていた高校の校舎。
景色は見慣れた街並みに移り変わってきた。
けれど歩きとなると、うちまであと30分はかかる。
「いい加減腹減ったな。何か食わねぇ?」
「あー、私お金持ってきてないの」
「俺も水分買う金しか持ってねぇんだけど」
ジャージのポケットからユキくんが出した小銭は、200円。
「小学生の小遣いかってな」
「ふふっ、ほんとだ」
「パンくらい買えるか。半分こして食おうぜ」
「いいの?」
「いーよ。好きなパン何?」
「ユキくんは?」
「メロンパンか、クリームパン」
「私もどっちも好き」
「じゃあ、デカイ方にしよ」
コンビニのパンの陳列棚の前。
子どもの買い物のように100円玉を2枚握りしめ、どれを買うか相談する。
大きい方がお腹が膨れるということでメロンパンを選び、私たちは買い物を終えた。
「「いただきます」」
自転車を停め、ガードレールにユキくんと並んで腰を預ける。
半分こしてくれたメロンパンに、パクリとかぶりついた。
「美味しい!朝ごはん食べてこなかったから嬉しい」
「小銭でも持ってて良かったよ」
「ありがとう」
「たかだかメロンパン半分だけどな」
ユキくんと家まで歩いた時間は、結局寄り道も含めて約1時間半。
最初はユキくんの親切がありがたい反面、ちょっぴり緊張もしていた。
初対面の男の人と二人きりになるんだからそれも当然。
ところが、鶴の湯の煙突が見え家が近づく頃には、何だか寂しい気持ちにすらなっていた。
割と人見知りしてしまう私だけど、ユキくんが気を遣ってくれたおかげだろうな。
もっと、話したかったかも…。
「じゃあな」
「うん、ありがとう」
私の家に自転車を停めたユキくんが、アオタケに帰っていく。
「あ、ユキくん!ちょっと待って!」
「ん?」
ユキくんを引き止め、店の中に入る。
その中からできるだけ赤くて艶々した美味しそうなものを見繕って、ビニール袋へ。