第1章 ふわり、舞う
到着したみんなはそれぞれひと息つく。
呼吸も整い楽しそうに雑談している中、王子くんは土に伏せたままピクリともしない。
気を失っているんじゃないかと心配になって、思わず声をかけた。
「王子、くん…?大丈夫…?」
「……お構いなく」
「脱水じゃないのかな…。水分摂ったほうが…」
「これが通常ですが……」
チラッとハイジくんを見てみると、そのとおりだと言うように苦笑いが返ってきた。
休息を挟んだあと、ここからまたアオタケまでの5km、全員ジョグで帰る。
カケルくんを先頭にして、みんなは一斉に出発していった。
私はこのまま自転車で家に…。
「あれ…」
漕ぎ出したはいいけれど、ペダルが重くて全然進んでいかない。
しゃがんでタイヤを確認してみると、後輪がペコッとヘコんで弾力を失っている。
「やだ…パンクしてる…」
こんな早朝に開いてる自転車屋さんもないし、これでは歩いて帰るしかない。
徒歩で5kmか…。結構時間かかるな。
小さくため息をついて立ち上がろうとした時。
「大丈夫?」
頭上から声が降りてきた。
「あ…うん。パンクしちゃったみたいで…」
「あらら」
声の主は、ユキくんだった。
さっきみんなと走って行ったはずじゃ…。
屈んでタイヤを触るユキくんの横顔をボンヤリ眺める。
「こんだけ空気抜けてたら走れねぇな」
「そうなんだよね。あの、ありがとう。私は歩いて帰るから、どうぞ先に…」
「貸して」
ハンドルに伸ばしかけた手が、ユキくんによって遮られた。
「俺も歩いて帰るわ」
そう言ってパンクした自転車を引いてくれる。
「え?悪いよ!練習できなくなっちゃう!」
「サボる口実ができてラッキー、みたいな?」
さっき初めて会った時は、ちょっと近寄りがたい雰囲気だと思ったユキくん。
でも目の前のいたずらっぽい笑顔はそんな第一印象を払拭してくれて。
ホッとした私は、ユキくんと並んで歩き始めた。