第7章 夏の風 ―ユキside―
翌朝。ハイジの提案で急遽ミーティングが開かれた。
コテージから少しばかり離れた林の中で、10人が円になる。
話の中心にいるのは、カケル。
榊との確執。そして自身の過去。
包み隠さず話してくれたその内容は…
高校時代の、暴力事件。
「俺は高校の陸上部が大嫌いでした…。監督は力で選手たちを抑制し続け、脚を故障した選手にも無理な練習メニューを強要して再起不能にさせたあげく、切り捨てたんです…」
カケルは想像に違うこと無く、高校時代から優秀な選手だったようだ。
監督はそんなカケルだけに特別目をかけたものだから、カケルと他の部員との溝は当然深くなってしまう。
切磋琢磨する仲間、なんて。
そんな青春ドラマみたいな関係、カケルからしたら別次元の話だろう。
そして監督の行き過ぎた指導。
カケルの後輩は故障した脚を酷使した結果走ることができなくなり、陸上部を追われた。
その後輩というのは、長距離の特待生で入学した生徒。
スポーツの特待生が怪我などの理由で退部に追い込まれた場合、学校に留まることの後ろめたさに耐えきれず、退学してしまうことも少なくはないと聞く。
心ない人間から後ろ指を指されたり、でなければ腫れ物に触れるように扱われたり。
まだ高校生の年齢でそんな挫折を味わうというのは、想像を絶する。
まるで服従関係のような、監督と選手たち。
そのやり方に、少しずつ蓄積されていくカケルの心的負荷。
それは三年という時間の中で膨大に膨れ上がり、例の後輩が退部を宣告される場面を目の当たりにした瞬間。
全てが音を立てて切れた。
カケルは衝動的に、監督に手を挙げてしまったのだ。
「監督は鼻を折り、俺は決まっていた推薦を取り消しになって部を辞めました。話が大きくなることを嫌がった学校が陸上部の活動を自粛するように決めて、俺はもちろん、同じ学年の榊たちも全員…最後の大会に出場することはできませんでした…」
なるほど、と合点がいった。
「恨まれても仕方ありません。俺の一瞬の行動のせいで三年間積み上げてきたものを無駄にさせられて。榊は、特に…」
榊のカケルに対する執着の理由は今言ったとおり、未だ晴れない恨み…か。