第7章 夏の風 ―ユキside―
俺って結構単純じゃね?
これ、双子のことバカにできねぇぞ…。
心の中でセルフツッコミしている最中、手に何かが触れた。
舞の指先が、俺の小指を握っている。
「ちょっとだけ。ダメ…?」
控えめに、僅かに目を逸らして呟く舞。
ダメなわけ、あるはずない。
つーか、こんな風に甘えてくる舞、激カワイイ。
はっきり言ってけしからん。
抱き締めたい、キスしたい、押し倒して…
いやいや、せいぜい手を繋ぐくらいで我慢しねーと。
煩悩を理性で振り払い指を絡めて 、恋人繋ぎまでにとどめておく。
「ふふっ、嬉しいな」
この程度でも満足そうに照れ笑いする舞を見ていると、己の邪な感情が恥ずかしくなる。
それと同時に、舞と次のステップに進める日は訪れるのだろうかと若干不安にもなる。
大切にしたいと思う反面、俺だって男なのだ。
舞ともっと深い関係になりたいと願っているのも本音。
そんなことを頭で考えていたら、尚更舞に触れたくて仕方がなくなる。
風呂上がりの血色のいい頬に片手を添えて、唇を寄せた。
視界の端に舞の驚いた表情が見えるが、構わずキスをする。
そっと、一度だけ。
ガタンッ―――!
背後で大きな物音がして肩がビクリと揺れる。
振り返ったところには、真っ暗なキッチンに白く浮かび上がる誰かの顔。
「…王子!?」
俺も相当ビックリしたが、それ以上に驚いた様子の舞は声をなくした。
「失礼。手が滑ってしまいました」
そう言って、床に落としたペットボトルの水をゆっくりと拾い上げる。
「お邪魔してすみません。どうぞお続けになって」
チラリとこちらを見たあとそれだけ言い残し、王子はノソノソと寝室へ消えていった。