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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第7章 夏の風 ―ユキside―



太陽が空のてっぺんを通過し、徐々に角度をつけ始めた頃。俺たちは練習を再開した。
この白樺湖は山の中にあるため、練習のコースも必然的に緩急の変化に富んだものとなる。
午後のコースは、傾斜の多い山道。
アップダウンをひたすら繰り返して走り、ラストスパートとして別荘までの長い坂をダッシュで登る。


その途中。


「おーい!」


「みんなー!お疲れさまー!」


女の高い声が、二つ。


「ハナちゃんだ!」

「舞ねーちゃんもいる!」


は…?舞…?


双子が真っ先に見つけたのは、間違いなくハナちゃんと舞。
そして八百勝の勝田さん……二人の父親だ。

「肉が見えますよ!あの袋の中に、お肉が沢山!」

ムサは視力が桁違いにいい。
勝田さんが手にしているビニール袋の中身まで、この距離から見えているらしい。

部費が豊かでない我が寛政大学陸上部は、昨夜の夕食さえ肉なしカレーだった。
全員がその肉に誘われるように最後の力を振り絞って走り、三人のいる別荘まで辿り着いた。



「はぁっ、舞…」

「お疲れ様、ユキくん」

「ビックリした…」

「うん。ビックリさせようと思って、黙ってたの」

この一週間は声すら聞けないものだと思っていたから、こうして会えたことに胸が沸き立つ。
今日一日の疲れなんてたった今吹っ飛んじまったくらい。

「めちゃくちゃ元気出た。遠かっただろ?来てくれてありがとな」

舞の笑顔を見ていたら愛おしさで胸が満たされ、無意識に頭に手が伸びた。
軽くポンとひと撫でして腕を下ろしたタイミングで、ふと横から視線を感じる。

首を捻った先には、勝田さん。
…つまり舞の父ちゃんが気まずそうな顔をしているのが見えた。
俺と目が合うなり、パッと逸らされてしまう。


こんなに汗だくだしTシャツだし、挨拶なんて状況には相応しくないかもしんねーけど。
今スルーするのはもっと有り得ないと思い、そばに歩み寄る。


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