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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第7章 夏の風 ―ユキside―



「おい!何やってるお前ら!集合だ!」

「は、はいっ!」

東体大の監督の声で、榊たちは去っていく。
残されたカケルは、何とも言えない苦悶の表情を浮かべていた。



別荘に戻って揃って昼飯を摂り、1時間半の休憩に入る。
カケルは一人、キッチンに立っていた。
そう言えば昼は皿洗いの当番だったか。
黙々と作業する様子は、どこか思い詰めているような…そんな雰囲気。
俺はカケルの隣に立ち、洗い上げた皿に手を伸ばした。

「ユキさん…?」

「布巾、これ使っていいのか?」

「いや、いいですよ。休んでください。俺の仕事なんで」

「さっさと終わらせて休憩しようぜ。午後からまた鬼ほど走らされるんだからさ」

俺が立ち去らないとわかると、カケルは神妙な声を零す。

「あの…すみませんでした」

「さっきも聞いた。何事もなく収まったんだからいいじゃねーか」

「でもみんなが止めてくれなかったら…」

「あの赤毛ワカメ、こんだけ絡んでくるってことはよっぽどカケルのこと好きだよなぁ」

「……」

……なんて冗談で笑えるわけないか。
そもそもこいつは冗談の通じるキャラじゃない。
どこか一線引いて、いつまで経っても俺たちと深く関わろうとはしない。
ま、仲良し同好会じゃねーからな。
それが悪いわけじゃないが…。
こういう時、お前自身がしんどいだろ。

「ハイジにも言えないか?」

「え?」

「無理して俺たちにまで何か話す必要ねぇよ。でもハイジだけにならどうだ?」

「ハイジさん…ですか…」

すべての皿を洗い終えたカケルが、蛇口を捻って水を止めた。

カケルの過去が気にならないわけじゃない。
話を聞いて何とかなるならいくらでも聞くが、今のカケルにとってその役割はハイジが適任だろう。

「よし、終わったな。休憩ー!俺ちょっと仮眠するわ 」

「……ありがとうございます」

「おう。お前も少しは休めよ」


早朝から走り込むのはもう日課だ。
夏に入ってからは気温が高くなる前に練習を始めていることもあり 、昼食後は睡魔が襲う。
午後からの練習に備え、俺はソファーに横になった。


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