第1章 ふわり、舞う
「ちなみに今更だけど、清瀬灰二。このチームのキャプテンだ」
少しおどけたように、ハイジくんは言う。
本当に今更な自己紹介に思わず笑ってしまう。
「ふふっ。うん、知ってる」
「そっちは犬のニラだ」
「うん、それも知ってる」
玄関脇にリードで繋がれたニラ。
一緒に付いてくる気満々といった感じで、落ち着きなく右往左往している。
ハイジくんがリードを手にすると、更に興奮して彼の周りをクルクル回り始めた。
「よし、じゃあ準備運動が済んだら出発する。今日もタイムを測るからな」
ハイジくんの指示で、数分後、10人はアオタケを出発した。
私は自転車で先を行く…
……先を行く、つもりなのに…。
カケルくん、めちゃくちゃ速い!!
ちょっと待って!人間が走る速さなの、これ!!
先導しようと思っていた私はあっという間に追い越されてしまう。
でもタイム計測を任されたからには、先に多摩川に辿り着かなきゃ…!
ひたすらペダルをガンガン回転させて、自転車を走らせる。
しかしできる限りの努力はしたものの、結局カケルくんに追くことはできなかった。
「はぁ、はぁっ…。ごめんね、カケルくん。タイム測らなきゃ、なのに、はぁ…っ、追いつけな、かった…コホッ…」
「自分でも測ってたから問題ないです」
そう言って、左手首に巻かれたランニングウォッチを指差す。
「はぁっ、ああ、そうなんだ、はぁ…」
「大丈夫ですか?」
「うん…」
何でこんなにケロッとしてるの、この子?
あの速さで5km走ってきたところだよ?
「ちょっと俺、流してきます」
「え?」
「止まったままだと体冷やすんで」
カケルくんはまた土手を走り始めた。
本当に何者…?
長距離選手ってこれが普通なの?
ハイジくんが "うちのホープ" って言ってたのがわかった気がする。
それから数分して、次々にメンバーが到着する。
私は気を取り直し、カケルくん以外のタイムを順に計測した。