第7章 夏の風 ―ユキside―
東体大は六道大には及ばないものの、駅伝の強豪校だ。
その中の部員の一人、カケルの知り合いらしい赤毛のワカメ頭。榊って名前だったか?
こいつが練習や記録会で遭遇するたび、いつも俺たちに難癖を付けてくるのだ。
いや。俺たちというか、カケルに…か。
進行方向を塞ぐように走る、榊の集団。
どうやらそれが勘に障ったらしいカケルがペースを上げる。
一人にしては心配だと、後に続くハイジ。
数分後。
ようやく二人に追いつくとそこでは何やら揉めていて、榊が一人捲し立てている最中だった。
「箱根を目指すなんて、どうせミーハーな動機でしょう?
出れば注目される。出たいと言えば話題になる。そんな浅い考えで叶いもしない目標を掲げてはしゃぐ、ミーハーな連中ですよ、あんたたちは」
俺らレベルの陸上部なんて、こいつからしたら遊びに見えるのだろう。
箱根を目指すこと自体、身の程知らずで気に食わないってところか。
だとしても、だ。
前から不思議だった。
東体大と俺たちじゃレベルが違うのは明らか。
それなのにこいつ、何故こんなに絡んでくる?
ミーハーな連中だと思うんなら勝手に見下していればいい。
カケルに対する執着、正直異常だ。
「あ、そうだ。勝負しますか?10対10で。そしたらわかりますよ。真剣さの意味が」
はぁ?何言ってんだ。こいつ。
「じゃあ俺とやれ。俺だけでいい。この人たちは関係ない」
おいおいカケル。安い挑発に乗るな。
「そういうところがチームを壊すんだよ…。いいタイム出して注目されて、悪い気はしないよなぁ?誰の犠牲があったかも忘れて」
犠牲…?
「満足か!?やっとできた仲間と走るのは!仲良くかけっこできて、満足かよ!?」
ギリギリブチ切れるのを耐えていたカケルが、榊の胸ぐらを掴みに行く。
拳を振り上げ殴りかかるところを、間一髪でハイジ、先輩、神童が止めに入った。
「な!?あの時のままだ!そうやって誰かの努力をぶち壊すんだ、お前は!!」
詳しいことはわからないが、これだけははっきりした。
榊はカケルに対して、許し難い怒りを抱えている。
だからと言って、こんなにも粘着質に攻撃的になるのは褒められた行為とは言えない。
俺たちは榊の前に立ち塞がり、カケルとの間に壁を作った。