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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第7章 夏の風 ―ユキside―



コテージを出て、夕陽が沈みかけた坂道を下ると湖畔に辿り着く。
湖に反射する陽の光は、砕けたガラスのように水面に輝きを集めている。
走り慣れた多摩川までの道や練習場とはまるで違う風景に、思わず息を飲んだ。

「湖は一周3.8km。3周走ったら別荘に戻っていいぞー」

いつのまにか、ハイジ率いる陸上部員としての自覚が芽生えたのか。
それとも、もはや諦めの境地なのか。
俺たちはハイジの指示に忠実に従い、陽が沈む頃、今日の練習を終えた。


夕食を済ませ、一息ついて布団に入る。
スマホの電波は何度見ても圏外。
舞、今頃何してるだろう。

走り始めてからここまで、舞の存在は大きかった。
舞の応援で頑張ろうと思えたし、走る理由がなかった俺の支えになった。
逆にハイジとの関係に疑心暗鬼になってしまった時には、走ることで忘れようともした。

これから一週間連絡が取れないとなると、正直寂しい。


「どうしたユキ?朝からやたらスマホを気にしてるな」

部屋に入ってきたハイジが、俺の布団の前で足を止めた。

こいつマジで目ざとい。
つーか結局のところ舞のこと、どう思ってんだよ?

「舞ちゃんに連絡したいんだろ、どうせ。圏外じゃ残念だな」

「えー!?やっぱユキさんと舞ねーちゃん、付き合ってんの!?」

「いつから!?どっちから告ったの!?」

「うるせーなぁ!修学旅行か!」

「いーじゃんいーじゃん!恋バナしよ!ユキさん!」

「しない!寝る!クソ…なんで全員で大部屋なんだ…。キング、いびきうるさかったら口塞ぐからな」

「俺に当たるなよ!」

「お前が舞の名前出すからこいつらがウザ絡みしてくんだろうが!」

ギャーギャーうるさい双子の声を耳栓でシャットアウトして、布団を被った。
まあ練習に明け暮れていれば、一週間なんてすぐか。
東京に戻ったら、その日に舞に会いに行こう。




翌朝は晴天。昨日走った湖の外周を、同じように周る。
山の中とあって東京とはやはり暑さが違う。
陽が昇りきったこの時間に屋外を走っていても、さほど消耗される感じがしない。
日常とは離れた場所で走るっていうのも悪くはないものだ。

―――と、思っていたのだが。


途中、東体大の陸上部に遭遇した。


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