第6章 願い叶えて
そっと体が離れていく。
ここにいるのに。
目の前にいるのに。
触れていてくれないのが寂しくて仕方がない。
「ユキくん。もう一回、ギュっとして…」
「…いーよ」
小さく息を漏らして笑ったユキくんは、私をまた抱き締めて首筋に顔を埋めた。
「すげー、好き…」
こんなに甘い声、初めて聞いた。
安らぐ香りと、耳から送り込まれる艶やかな吐息。
「私も、好…っ、やぁ…っ」
これ以上ないくらい幸せな気持ちに浸っていると、ユキくんは私の首に啄むようなキスをする。
「…なんつー声だよ」
「だってそんなとこにキスするから…!」
ユキくんなのに、ユキくんじゃないみたい。
私を見つめる色っぽい視線も、大人のキスも。
ひとつひとつの仕草だってまるでいつもと違って、正直戸惑う。
「悪い。嫌だったんなら謝る」
「…違う。好きな気持ちが止まらなくなっちゃって、困る…」
「……何だよそれ。そんな可愛いこと言ってくれんの?」
「うん…。大好き」
自然と引き寄せられた二つの唇は、小さな音を立ててまた触れた。
「ねぇ。これ外して?」
薄いレンズ越しのユキくんの瞳。
一度しか知らないその素顔が見たくて、フレームを指差す。
ユキくんは黙って眼鏡を外し、Tシャツの胸ポケットにそれを入れた。
「ん。これでいい?」
「顔、見える?」
「さすがにこの距離ならな。舞の可愛い顔がよーく見えますよ」
細長い指は私の頬をゆるゆる撫でる。
温かくて、くすぐったい。
「ユキくんの目がね、すごく好き」
「へぇ…そうなんだ」
それだけ返し、真っ直ぐに私の瞳を見つめてくる。
「あぁっ、待って、そんなにジッと見ないでっ…!恥ずかしい…!」
心ごと見透かされているみたいな、色気のある目尻の上がった瞳。
見つめられると明らかに心拍数が上昇し、顔に熱が集まるのがわかる。
咄嗟に伏し目がちにして直視を回避。
ドキドキし過ぎておかしくなりそう…。
「舞がそんなに煽り上手だとは思わなかった」
「煽…る…?」
「もっと好きになった。たまんない…」