第6章 願い叶えて
「ありがとな、今日。来てくれて」
「私もみんなの応援したかったもん。本当におめでとう」
「舞がいてくれたから、頑張れた」
「ユキくんの実力でしょ?」
「まあそれもそうなんだけど。でも気持ちが全然違った。舞のおかげだ」
「そんなこと…」
何となく足が向かう先はいつもの公園。
自販機でレモンティーを二つ買って、昨日と同じベンチに腰掛けた。
「飲み会、舞も来れたらよかったのにな」
「行きたかったなぁ。今月はシフト増やしちゃって」
練習に参加しないと決めた時から、ユキくんに会えない寂しさを埋めるためにバイトを増やした。
悲しい気持ちを紛らわせたくて。
他に集中できることがあれば、あまり考えずにいられたから。
「…俺のせいだったりする?よな?」
「う、ううん!そんなことないよ、たまたま!」
しまった。勘のいいユキくんにはこんなこと言うべきじゃなかった。
「悪かったと思ってる。あの時のこと。自分のために舞を傷つけたようなもんだ」
浮かない顔で睫毛を伏せるユキくんに、チクリと心が痛む。
「もう、やめよ。私ね、ユキくんが好きだよ。ユキくんは?…聞かせて?」
「好きだよ。好きに決まってんじゃん」
今度は真っ直ぐに私を見て、言い聞かせるみたいにゆっくりその言葉を紡いでくれる。
ユキくんの手が、私の肩を抱いた。
「こっち、来て」
「…うん」
長い腕にそっと包み込まれた体。
急激に熱くなって、鼓動が指先にまで響く。
ユキくんの背中に手を添えると、もう少しだけ力を加えて抱き締められた。
心臓の音が聞こえてしまいそう。
肩越しには白い首筋。
月明かりを反射して光る、右耳のピアス。
混ざり合う体温。
「舞は、いつも素直で真っ直ぐだよな。そういうとこ、めちゃくちゃ好きだよ」
甘くて優しい声。私の知らないユキくん。
そんな風に思ってくれてたんだ。
こんな風に想いを伝えてくれるんだ。
心にじんわり、幸せな気持ちが広がっていく。
ふと、鳥のさえずりみたいな音が頬を掠めた。
触れたのは、ユキくんの唇―――。