第6章 願い叶えて
その夜。
夕食を済ませた私は、スマホに手を伸ばした。
ユキくん、まだみんなと飲んでるよね…。
きっと今頃アオタケでは、公認記録突破のお祝いと称して賑やかにお酒が進んでいることだろう。
私たち姉妹も誘ってくれたけれど、夕方にバイトを入れてしまっていたため、葉菜子だけアオタケに置いて帰ってきた。
時間はもうすぐ22時。
声、聞きたいな。
でも楽しんでるところを邪魔したら悪いよね…。
今日はLINEにしておこう。
アプリを開き、どんなメッセージを送ろうか悩みながら文字を入力している途中、玄関の扉が開く音がする。
「ただいまぁー!」
どうやら葉菜子が帰宅したらしい。
すぐに足音がトタトタ近づいてきて、私の部屋のドアをノックする。
「お姉ちゃん、起きてる?」
一旦スマホを机に置いて、廊下に顔を出す。
「おかえり。楽しかった?」
「うん、すっごく!でね、ユキさんが家まで送ってくれたんだけど」
「え?」
「外で待ってるって!」
声を弾ませながら葉菜子は私の手を引く。
「早く早くっ!」
「う、うん!」
慌ててスニーカーを履き、玄関のドアを開ける。
街灯のそばには見慣れた人影。
私の姿を見つけるなり、柔く笑う。
「よお」
「ユキくん…」
「よかった、起きてて」
思いがけず会えたことが嬉しくて堪らない。
気持ちを伝えてしまったからか、どんどん想いが膨らんでいく気がする。
「今ね、電話しようか迷って。でもみんなと楽しんでるだろうからLINEにしよう、って思い直したとこなの」
「何だよ、そんな遠慮なんかしなくていいって」
「…でも」
「現に俺だって、会いたいからこうして来たわけだし」
"会いたいから" なんて。
そんな甘い台詞、私に言ってくれるの?
私はユキくんが好きで、ユキくんも私のことを…。
想いが通ったことが急に現実味を帯びてきて、鼓動が早くなる。
「少し、時間いいか?」
「うん…」
昼間とは打って変わって静まり返った商店街を、私たちは並んで歩き始めた。