第1章 ふわり、舞う
「3年生の杉山高志。山形出身で、あだ名は "神童" 。酔うと方言で熱く語る癖がある」
右目の下に泣きぼくろがある、優しそうな男の子。
小柄で笑顔が可愛い癒し系。
「同じく3年の平田彰宏さん。俺が入学した時は1年先輩だったのに、何故か今は1年後輩だ。ニコチン中毒のおかげであだ名が "ニコチャン先輩" になってしまった」
無精ヒゲを生やし、髪の毛を無造作にひとつに結んだ何だか気だるそうな雰囲気の人。
例えるなら、休日のお父さんって感じ。
「4年生の坂口洋平。自称クイズ王に由来して、"キング" 」
角刈りって言うのかな…?若い人にしては珍しい髪型…。
何かすごく念入りに準備運動している。
「それから……あれ?ユキがいないな」
最後の一人の名前を口にしたハイジくんが、キョロキョロ視線を彷徨わせる。
「帰ってきてんのか?またクラブじゃねーの?」
「いや、ハイジさんがジャージ姿で付いてくるから、クラブ通いは辞めざるを得なくなったってボヤいてましたよ」
玄関に視線を向ける、キングくんと神童くん。
「呼んでくる」
そう言ってハイジくんが玄関の引き戸に手を掛けようとした時、扉は大きく開け放たれる。
「わりぃ。遅れた」
「ああユキ。ちょうど舞ちゃんにみんなを紹介していたところだ」
「 "舞ちゃん" …?」
家の中から出てきた男の人と、目が合った。
「最後の一人、岩倉雪彦。司法試験を一発合格した秀才だ。みんな "ユキ" と呼んでる」
すごい…司法試験って超難関で有名なやつだよね。
ツーブロックの髪型、右耳にはピアス。
風貌は今時の大学生そのもの。
クラブ通いなんて言ってたし、ちょっとチャラい雰囲気だ。
けれどその反面、眼鏡越しの切れ長の目元は知的にも感じられる。
「ハナちゃんのお姉さんの、舞ちゃんだ。俺たちと同い年」
改めてハイジくんに紹介され、頭を下げる。
「「よろしくお願いします」」
図らずも、ユキくんと声が重なった。