第6章 願い叶えて
集団の前方にユキくん、後方に神童くんという位置関係。
周りのペース、か。
大会ともなると、自分一人で走っている時とは状況が変わってくるんだ。
祈りながら展開を見つめていると、神童くんがスピードを上げた。
ユキくんが走っていたコースを、今度は神童くんが入れ代わるように走る。
「ペースが変わりましたね」
「最初からそのつもりだったんだ。前半はユキさんがペースを作って…」
「後半は神童さんがユキさんを引っ張っていく」
なるほど…とムサくんたちの会話に納得している間もなく、留学生二人と先頭を競うカケルくんがすぐ後ろまで追い上げてきた。
周回遅れの選手は、先頭ランナーにインコースを空けなければならないらしい。
先頭三人中一番後ろを走っていたカケルくんが集団を抜いた直後、後に続く形で神童くんとユキくんがインコースを取る。
「あっ…!」
ジョータくんたちはそこで何か気づいたように声をあげた。
「周回遅れになることを想定してコース取ってたんだ!」
「絶対ユキさんの作戦だよ!」
ハイジくんから以前聞いた。
大会ではいいコースを取ることも必要な技術だそうだ。
カケルくん、神童くん、ユキくんの連携プレー。
きっとこれが、今できる最善だということ。
あとは、16分30秒以内にゴールすることができれば…!
「おい!カケル行くんじゃね?ほら!」
気づけば、先頭争いをしていた留学生二人をカケルくんが抜こうとしていた。
「やべー!あいつマジでやべーって!」
「カケルくーん!行けーっ!」
「すごいすごいっ!ファイットォー!カケルさーん!」
私と葉菜子も応援に力が入る。
遂に1位を走るカケルくん。
「「行け行け!カケルー!!」」
タイムは、14分6秒を切ってゴール。
長距離では無名の寛政大学から高タイムで1位の選手が出たとあって、辺りはざわめきに包まれる。
「次!ハイジさん来ます!」
ムサくんの声で視線を送った先。
東体大の選手と競って並走していたハイジくんは、ゴールの数十メートル前で加速する。
「ハイジくーん!頑張れーっ!!」
そのままグングン突き離し、ハイジくんも高タイムを叩き出した。
「すごい、ハイジくん…」
怪我で4年も走れなかったとは思えない。
走ることを諦めず、水面下で努力し続けた結果だ。