第5章 頬を伝うのは…
「誰の彼女だって!?んなもんいねーよ!
舞と、ハイジと、俺のためになんねぇって言ってんの!」
「何、を…」
ユキくんとの会話は全然噛み合わないけれど、今、すごく重要な台詞だけは理解した。
彼女ができたわけじゃなかった。
そしてハイジくんの名前が出てきたということは…。
「前にも聞いたけど。ハイジと付き合ってんだろ?」
……やっぱり、そうだ。
「付き合ってない…」
「あー、そう…。でも好きだよな?お互い」
「何でそうなるの?勘違いにも程があるよ」
「じゃあハイジが倒れた日のあれは何だよ?キスされてたろ?」
「キスじゃない、事故だよ!ハイジくんの唇に私のほっぺが突っ込んでっただけ!」
「何だそりゃ!?」
「とにかくあの時のハイジくんは寝惚けてただけだし、私は純粋に仲間として心配しただけ。
私とハイジくんは、友達だよ。これまでも、これからも」
困惑したように眉根を寄せるユキくん。
何でそんな顔するの…?
「…勘違い、すんだろ普通。舞はハイジのことよくわかってる感じだし。二人で昼飯食ったり、倒れた時もすげー心配してたし。ハイジはハイジで俺よりずっと前から舞のこと知ってて、二人仲良さそうで。俺の知らない舞をきっと沢山知ってんだろうし…」
唇を突き出しながらボソボソそんなことを言い始めるユキくんに、思わず心の声が口をついて出てきてしまう。
「…ユキくん、寂しかったの?」
「はっ、はあぁっ!?」
「怒らないでよぉ…」
「怒ってねぇよ!かっこわりぃんだよ!」
「かっこ悪くてもいいよ。それでもいいから、私のこと、ちゃんと見て…?
すっごくショックだったんだから。もう口聞いてくれないかもとか、それどころかずっと会えないかもって思ったら、寂しくて悲しくて仕方なかった。毎日、一日中、ユキくんのことばっかり考えてたんだからね」
胸に抱えていたわだかまりを一気に吐き出す。
「ごめん…」
掠れた声にハッとしてユキくんの瞳を見つめる。
違うじゃない。この前王子くんも言ってた。
誤解させたり悲しい思いをさせないように相手を思いやるんだ、って。
自分ばっかりじゃなくて、ユキくんの気持ち、考えなきゃ。
「ごめんね…こんな、責めるような言い方して…」