第5章 頬を伝うのは…
「なんでそんなこと言うんですか…?ユキくんを困らせる方が嫌だから、会わないって決めたのに…」
込み上げて来る涙が、ひと粒こぼれてしまった。
「会いたくねぇの?」
「会いたい…もう、ずっと会いたくて…それでも我慢してるんです…」
頬に伝ったそれを手のひらで拭って、うつむきながら答える。
「何泣かせてるんすか」
久しぶりに聞く、もう懐かしさすら覚えるような声。
足元に影ができて、パープルとピンクのコンビカラーが視界に入って来た。
見覚えのある、ランニングシューズ。
ユキくん―――
「やーっと来た。あのなぁ。泣かせてるのは、お前」
先輩はベンチから立ち上がるなりユキくんにデコピンした。
「ちゃんと話せ」
それだけ言い残して公園から出て行ってしまう。
残された私たちの間には、何とも言い難い沈黙が流れた。
子どもたちの声が際だって大きく聞こえてくる。
「……ほら」
ユキくんがハンドタオルを差し出してくれた。
「ありがとう…」
さっきまで先輩が座っていた場所に、ユキくんは腰を下ろす。
少なくとも帰ろうとはしていない。
それが見て取れるだけで、安堵した。
「…何でここに?」
「さっき先輩からLINEきて」
そう言って、スマホの画面を私に見せる。
[舞ちゃんに緊急事態発生。すぐ公園まで来い]
さっきスマホ触ってたの、このメッセージを送るためだったんだ…。
ユキくんは大きく息を吐く。
「ごめん。避けたりして」
「……」
「正直、頭ん中グチャグチャで…」
私はただ、固唾を飲んで耳を傾ける。
「舞から距離を取らなきゃ、と思った」
「え…」
「俺が避けることで舞が悲しそうな顔してても、それが正しいって言い聞かせて…」
「言ってる意味が…わからない…」
「俺たちが友達でいても、誰のためにもなんねぇってこと」
「誰のためにもって、誰と誰のこと言ってるの?ユキくんとユキくんの彼女?」
「は…。はあ!?」
いっそのことはっきり言ってくれたらいいのに。
綺麗な言葉なんて使おうとしなくていい。
余計に悲しくなるじゃない…。