第5章 頬を伝うのは…
瞳から、ポロポロ勝手に込み上げてくる。
「私、自分ことっ…ばっかり…」
「いや、泣くなって。悪かったのは俺だし…」
「ユキくんが離れていっちゃうの、やだ…。そばにいて欲しい…」
勢いに任せて気持ちを言葉にしてしまったけれど、こんなの、好きって言っているようなものだ。
「そんなこと言われたら。俺、その気になっちまうぞ」
「その、気…」
「俺だって、毎日毎日舞のこと考えてた。
二人が付き合ってると思ったから、舞とは距離置かねぇとハイジに悪い気がして…。
舞がハイジのこと好きなら諦めなきゃ、とかさ…」
「だからハイジくんに対しては…」
「うん、今わかった。舞が好きなのは、俺なんだよな?」
「……」
真っ直ぐに私を見つめる瞳。
無言のまま数秒。
ユキくんの表情が徐々に焦りの色を持つ。
「え…っ、違うの…?」
「違わない」
「はあぁ…何だよ…。すっげー恥ずかしい勘違いしたかと思ったじゃねーか…」
そう言って力が抜け落ちたように膝に両腕を置き、頭をその間に埋める。
「違わない…けど。何か今の台詞、チャラくない…?」
「またそれかっ!」
「それに私の気持ちだけ言わせるなんてずるい」
脱力していた体をムクッと起こしたユキくんは、大きく息を吸う。
「わかった、言ってやる!好きだよ!
俺は!舞が好きだ!!」
耳にも心にもしっかり焼き付いた、 "好き" ―――。
ついさっきまでの不安定な気持ちなんて煙みたいに跡形もなく消え失せて。
代わりに、別のものがジワジワと湧き上がる。
「いいわねぇ、若い人は!」
「カッコイイよっ!兄ちゃん!」
ユキくんのよく通る声は、公園に訪れている人たちにも聞こえていたらしい。
ウォーキング中の夫婦にからかわれてしまう。
「…っ、行くぞ!」
慌てて公園を後にした私たち。
ユキくんは私の手を掴んで足早に半歩先を行く。
歩幅を大きくして、隣に並んだ。
もう離れたくなくてその手を握り返すと、ユキくんの細長い指先が私のものと絡みあう。
視線を送るユキくんの横顔。
その耳は赤く染まっていて…
この瞬間。
ユキくんのことが、今までで一番愛おしい。
「ユキくん、大好き―――」