• テキストサイズ

淡雪ふわり【風強・ユキ】

第5章 頬を伝うのは…



今日は久しぶりの快晴。貴重な梅雨の晴れ間だ。
学校を終えいつもより少し早い時間に店に下りると、待っていたかのようにお父さんの豪快な声が響く。

「舞!神童来てるぞ!」

そうだ、神童くん…。
あの日は随分雨に濡れてしまっていたけど。
大丈夫だったかな。



「一昨日はありがとうございました」

よかった…私のよく知る笑顔だ。
貸した傘とタオルを返してくれる。

「風邪ひかなかった?」

「はい、おかげさまで。今日はハイジさんの代わりに買い物も兼ねて来たんですけど…」

メモを片手に、神童くんは視線をキョロキョロさせた。

「豆苗ってどんなのですか?」

「ああ、これだよ」

「これが豆苗ですか。僕カイワレだと思って食べてましたよ」

あはは、と笑って談笑する様子はいつもの神童くんと変わらない。
ハイジくんが買い物に来た時同様、大きなエコバッグは10人分の食材でパンパンになってしまった。


「次の記録会、頑張りますね」

「うん」

「じゃあ、失礼します」

そう言って背を向けた神童くんは、歩きかけたもののピタリと立ち止まる。


「舞さん。ありがとうございました。この前、何も聞かないでくれて」


静かに放たれたその言葉。
何のことなのかは、すぐに思い当たる。

私が返答するより早く、神童くんは振り返って笑う。

「僕とユキ先輩、もう少しで届きそうなんです」

「公認記録?」

「はい。ユキ先輩言ってました。次は絶対公認記録出すって。俺が決めて叶わなかったことはないって」

もう。本当ユキくんって…

「「クールなフリしてるだけなんだから」」

重なってしまった台詞に、二人で笑う。

どんな言い方をしたのか、とか。
声のトーンはこんな感じかな、とか。
その時のユキくんを想像するだけで頬が綻ぶ。


「僕たち、舞さんとも一緒に走ってるつもりでいますからね」


「…うん」


やっぱりそばで応援したいと思ってしまう。
アオタケのみんなは、あったかい人たちばかり。



神童くん。
こちらこそ、ありがとう。
私たちのこと、何も聞かないでいてくれて。


/ 291ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp