第5章 頬を伝うのは…
何故ユキくんに避けられてしまったのか理由もわからない、今の状況。
なるべく考えないようにはしているけれど、自分ではどうにもならなくて苦しい。
「うーん。それは違うんじゃないですか」
「え?」
「相手の考えていることがわかってしまったら、こっちは想像すらしなくなりますよ」
「……」
「想像することで、相手を思いやったり悲しい気持ちにさせないよう努力したり、誤解を生まないように話し合ったり。そういうコミュニケーションを大切にしようと思えるんじゃないでしょうか」
三角に折った膝の上でページを捲りながら、淡々と語る王子くん。
その言葉は真理をついていて、私をハッとさせる。
「本当だ…。そのとおりだね。すごいよ、王子くん」
チラリと私を見て少しだけ微笑むと、王子くんはまた漫画に目をやった。
王子くんの言うことは正論だ。
けれど、話すことすら叶わない私はどうしたらよかったんだろう。
ユキくんが走る道の邪魔だけはしたくなくて離れたつもりだけど…。
これって、ただ逃げているだけなのかな。
「舞さんがユキさんのことを思っての行動が今の状況なら、それでいいんじゃないですか?ただ、時間を置いてでもちゃんと話すことをおすすめしますが」
「うん…。ありがとう、王子くん」
「ユキさんどうかしたんですか?そういえば舞さん、最近練習来てませんよね」
私たちの会話を聞いていたカケルくんは、キョトンとした顔で漫画から顔を上げる。
「はぁ…。陸上バカはほっときましょうか」
「何ですかそれ。王子さんだって漫画バカじゃないですか」
「漫画に熱いと言ってもらえないかな」
ムッとした表情でまた静かな言い争いをする二人。
王子くんの言うとおりだね。
いつかちゃんと、私の気持ちを話せたらいいな。