第5章 頬を伝うのは…
「ハイジさんが高校の陸上部で一緒だったらしいですよ」
「そうなんだ…」
前にハイジくんから聞いた話を思い出した。
箱根駅伝常連校への推薦が怪我を理由に駄目になったという話。
ハイジくんはきっと、六道大学への推薦をもらえるはずだったんだ。
怪我さえなければ、この三年間のどこかで箱根に出場できていたかもしれない。
苦しかっただろうな…。
「カケル、読み終わったよ」
「どうも」
カケルくんは王子くんから漫画を受け取る 。
「え?カケルくんも漫画読むんだ!」
「はい…王子さんの影響で」
「意外!しかもそれ恋愛漫画?王子くんそういうのも買うの?」
「面白いものはジャンル問わず買いますよ。下手に線引きしたら勿体無いでしょ」
「確かに」
王子くんは次の巻に手を伸ばす。
「主人公のライバルがユキさんっぽいんですよね」
ユキくんの名前を聞いて一瞬胸が痛む……けど。
ユキくんに似てるキャラクターって…?
ちょっと、興味ある…。
「……読みます?」
私の視線の圧が重かったのか、王子くんがその漫画の一巻を貸してくれた。
「はぁ…。雪人先輩かっこよすぎ。めちゃくちゃ推せる!」
「似てるでしょう?ユキさんに。クールぶってるのにお人好しで結局世話焼きな感じとか」
「似てる似てる!名前まで似てるし!」
頭が良くてメガネの黒髪で生徒会長。
ちょっと軽いキャラなんだけど、平凡ヒロインのことをちゃんと見てて、さり気なく助けてあげる。
こんな風にされたら好きになってしまって当然…と、創作なのに自分とダブってしまう。
「漫画みたいに、心の中が読めればいいのにね」
「はい?」
「漫画って心の声も吹き出しで書いてあるでしょ?こんな風に何を考えているのかが分かれば、スッキリするのに」