第5章 頬を伝うのは…
「舞さん、これよかったら食べませんか?」
そんな王子くんがポツリと呟いて、テーブルの上を指差した。
お皿に乗せられているのは手付かずのままの大きな海老カツサンド。
「カケルがカツサンドと一緒にこれも頼んじゃって」
「だって王子さんも食べるって言ったじゃないですか」
「言ってないよ」
「言いましたよ。漫画に夢中で生返事したんでしょ」
「漫画読んでる僕に話しかけたらダメだって何度も言ってる」
「開き直らないでください」
「大体僕のいつもの食事量から海老カツとカツの両方を食べられると思うかい?」
「王子さんの食事量なんて把握してませんから。俺はハイジさんじゃないんですよ」
「あー、私貰っちゃおっかな!海老カツサンド大好きなの!」
仲良くは見えないけど一緒に食事してるってことはやっぱり仲良し…?
うーん…よくわからない。
海老カツサンドを頂きながら、隣に座るカケルくんの雑誌を覗く。
「その人、有名な選手?」
「はい。六道大学の藤岡選手です。去年の箱根では2区を走った六道のエースですよ。今年インカレでも好成績を残してて…」
私の顔にハテナマークでも付いていたのか、カケルくんは一旦話を止めた。
「六道大学は箱根駅伝の常連校。それから2区っていうのはエースが走る区間とも言われていて、箱根の花形なんです」
「なるほど。10人の中でも特に速いランナーじゃないと務まらないってこと?」
「平地に強いとか条件はありますけど、まあそんなとこです。で、インカレっていうのは…」
カケルくんの陸上講義をひととおり聞いて、この "藤岡選手" がすごい人なんだということは理解した。