第5章 頬を伝うのは…
アオタケの練習に参加しなくなって数日。
学校にバイトと、やることはあるけれど…。
物足りなさを感じてしまうのが本音。
みんなのサポートをできるのは嬉しかったし、休憩の合間のおしゃべりだって楽しくて。
休みの日なんて、時間を持て余してしまう。
気分転換したくて、早めのランチにと入った純喫茶。
レトロな雰囲気で客層は年配の人が多い。
亡くなったおじいちゃんによく連れてきてもらったこの喫茶店。
幼い頃からのお気に入りの場所で、今でも時々こうして訪れる。
木製の扉を開けると、入り口のベルの音がカランカランと高く鳴り響いた。
ここでコーヒーを飲みながら、のんびり読書をするのが気分転換にはもってこい。
図書館みたいに静か過ぎる空間は、個人的には何だか落ち着かない。
適度に人の声やBGMがあった方がリラックスできるのだ。
私がいつも座る席は、店の一番奥の隔離されたような空間。
先客がいることも多いけれど、今日はどうかな。
「いらっしゃいませ。空いてる席にどうぞ」
店主のおじさんが声をかけてくれた。
迷いなく真っ直ぐ進み、最奥の席を覗いてみる。
あ、残念。
二人お客さんが座っている。
じゃあ別の席に、と踵を返そうとした時、その先客の一人が私に気づく。
「あ。舞さん」
「…カケルくん?」
雑誌を手にしたカケルくんの向かい側。
私に背を向ける格好で、両膝を立てて座っているもう一人も、こちらを振り返った。
「ああ、どうも…」
王子くんだ。
あれ?何か意外な組み合わせ?
この二人って仲良かったの?
カケルくんが読んでいるのは、どうやら陸上の専門雑誌のようだ。
王子くんの脇には漫画が五、六冊積み上げられている。
大学では漫画研究会に所属していて、練習が終わると着替えよりシャワーよりまず漫画、というほどの漫画好きらしい。