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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第5章 頬を伝うのは…



雨雲が覆う、学校からの帰り道。
降り出してくる前にと、足早に家への道を行く。
自分の部屋に入り着替えを済ませ、店に出る。
八百屋は夕方頃に客足が増えるため、時間がある時には私も葉菜子も店を手伝うようにしているのだ。
接客し始めて数分経った頃、怪しかった空から雨粒が落ち始めた。
店先の野菜が雨に濡れないよう軒下に移動させる。

ふと歩道へ目をやると、見知った人が近づいてくるのが見えた。
傘を差していないのに急ぐ様子もない。いや、急ぐどころかその歩調はやけにゆっくり。

思わず声を掛ける。


「神童くん?」


視線がぶつかった瞬間。
彼を呼び止めるべきではなかったのかもしれないと、一瞬後悔の文字が過る。


目が、赤い。


「舞さん…。こんにちは」


もしかして、泣いてた―――?


「久しぶりだね。こっち入って?傘とタオル、持ってくるから」

「大丈夫。アオタケまですぐですよ」

「次の記録会控えてるでしょ?風邪引いたら大変だもん」

立ち止まったままの神童くんを一旦店の中へ連れてくる。
タオルと男性用の傘を準備して、雨に濡れた神童くんに差し出した。


「ありがとうございます。あと、これ下さい」

傘とタオルを受け取る代わりに手渡されたのは、とうもろこしを盛ったカゴ。

「そんなのいいんだよ。気にしないで」

「はい。でもみんな喜んで食べると思うんで」

本当に優しい子だ。
気遣いができていつもニコニコ笑顔で。
そして、頑張り屋さん。
最近では後援会への入会を募るために、ホームページも作り始めたらしい。


「うち、傘沢山あるから。返すのはいつでもいいからね」

「ありがとうございます」

ほんのり赤い瞳に笑みを添えて、神童くんは手を振った。
とうもろこしが入ったビニール袋を左手に、傘を右手に持って、帰って行く。


何があったんだろう。
気づいていないフリを通したけど、あれで良かったのかな…。


「すみませーん、お会計お願いします」

「あ、はーい!」

小さくなる神童くんの後ろ姿から慌てて目を離し、私も仕事へと戻った。


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