第1章 ふわり、舞う
「支えになってくれてるよ。舞ちゃんはずっと」
そう言って微笑むハイジくんの顔はとても優しくて、私は照れくささのあまり言葉に詰まった。
ハイジくんは私にとって、すごく尊敬できる人だ。
走りたい気持ちを堪えて長期間リハビリして。
焦りも葛藤も苛立ちもあったはずなのに、それを乗り越えてきた、強い人。
それだけじゃない。
いつも明るくて、自分には厳しいけれど、人に温かい。
ハイジくんを見ていると、何だか自分が未熟な人間に思えてしまう。
そんな彼から突如「支えになってくれてる」なんて言われだのだから、戸惑わない方がおかしい。
でもほんの僅かだとしてもハイジくんの役に立てているのだとしたら、すごく嬉しい。
「私にできることがあったら何でも言ってね。勝田家全員、アオタケの応援団のつもりだから」
「ははっ、それは頼もしいな」
さっきとは違って、今度は目元をクシャッとさせた明るい笑顔が返ってくる。
ワンッ!
尻尾を振ったニラが、ひとつ吠えた。
どうやら痺れを切らしたらしい。
早く行こうとでも言うように、ハイジくんの足元を行ったり来たりしている。
「ああ、悪かったな、ニラ。もう行くから」
しゃがんでモフモフの頭を撫でるハイジくんと、尻尾の動きが更にご機嫌になるニラ。
何だかこの二人…いや、一人と一匹?ちょっと似てる気がする。
人懐っこいし、黒目がちの大きな瞳で真っ直ぐ見つめてくるところなんて、特に。
「またな、舞ちゃん」
「うん、また」
ニラはグイグイハイジくんを引っ張ろうとする。
「待て待て!」
ワンッ?
「走りたいのか?じゃあアオタケまで競争だ」
ワンッッ!!
「行くぞ?よーい…ドン!」
ニラと会話しながらハイジくんは走っていく。
「おー!さすが速いなぁ、ニラは!」
姿は遠くなりながらもまだ聞こえてくる二人の声に、思わず頬を緩ませた。