第3章 近づく距離
嘘じゃないし、大袈裟でもない。
ユキくんといると心が踊って、時には胸が大きく鳴って、別れ際は名残惜しくなる。
もっと一緒にいたいな、って思う。
そしてまた会えた時には、温かい気持ちで満たされる。
でもこれを口にするということは、"好き" と同じ意味のような気がしてしまった。
私、好き…なの?
ユキくんのこと…。
「俺といると?何?」
自問自答している横から、ユキくんは探るような声でまた尋ねてくる。
「ユキくんといるとね、すごく…面白い!」
「は?そう?」
「うん。キレ芸得意でしょ?」
「キレ芸じゃねーんだよ!双子が特にアホなことばっかするから、真っ当な人間の俺が突っ込んでだなぁ…って、なんか舞、顔赤いけど」
「え…、あー…。紅茶飲んだら温まったのかな?ユキくんのカップも空だよね。何か違う飲み物持ってこよっか」
「…おう」
上手く誤魔化せたかな…。
好き、なんて単語が頭を過ぎってしまったから、体が勝手に熱くなっていくのがわかる。
「ちょっと待っててね。わっ…!お父さん!?何してるの?」
ドアを開けた向こう側。
立ち塞がる父の姿に驚いて、思わず大きな声が出る。
「いやっ、これは、違っ、違うんだ!……そう!母さんがな!?」
「はい?」
「舞がユキと帰ってきたって言うから…その…あれだ!ほら、麦茶!」
手にしていたお盆をズイッとこちらに差し出す。
乗せられているのは、二人分の麦茶とお煎餅。
「ありがと…」
「客が来てんなら、お茶のひとつも出さなきゃ駄目だぞ!じゃあな!」
そそくさと立ち去る後ろ姿を見送り、また扉を閉める。
受け取ったお盆をラグの上に置いてユキくんの隣に座った。
「変なの…」
「舞が心配だったんだろ」
「え?」
「男と部屋に二人きりだから」
え!?そういうこと!?
「やだもう…お父さんってば…!」