第3章 近づく距離
「ハナちゃんは母ちゃん似だよな。舞は…」
「どっちにもあんまり似てないでしょ?親戚からは、おばあちゃんに似てるってよく言われるの」
「隔世遺伝か。面白いな」
ユキくんはどうなんだろう。
色白で目元はキリッとしてるし、お母さんがクールビューティーな美人さんだったりして。
「ユキくんはお父さんとお母さん、どっちに似てるの?」
ふと、交わっていた視線が外れる。
「あー…、父親。らしい」
「 "らしい" ?」
「俺が小さい頃死んだからあんま覚えてないんだけど。母親がよくそう言ってた」
ユキくんは前のめりになっていた体を起こして、トン、とベッドへ背中を預ける。
「そうなんだ…。兄弟…は?」
「一人っ子だった。ガキの頃は」
「?」
「高三の夏に母親が再婚するって言い出して。しかも妊娠してたんだよ。だから、18歳離れた妹がいる。高校卒業以来家帰ってないから、赤ん坊の頃しか知らねーんだけど」
高校卒業以来ってことは、3年も…?
「舞んちみたいに…なんつーのかなぁ…。手ぇ繋いでるような家族、いいなって思うよ。助け合って店やって、親とも妹とも仲良くて。
手を離して勝手に遠ざかったのは俺なんだけどさ。もう距離感わかんなくなっちまった」
「遠慮…してるの?お母さんとお義父さんに」
「遠慮だけならまだカッコつくんだけどな。反抗期引きずってるようなもんなんだよ、俺は」
目線を落とし、ただ一点を見つめながらユキくんは続ける。
「俺が支えなきゃって、子どもの頃から思ってきたんだ。朝早くから夜遅くまで働いて、女手ひとつで育ててくれたからさ。大人になったら今度は俺が稼いで、今までしてきてくれたことを返そうとも思ってた。弁護士目指して猛勉強して、俺なりに頑張ってきたつもりだったんだけど…」
そこで大きくため息を吐く。
「再婚するって聞いた時、おめでとうって言うどころか…自分の存在価値を見失った」
「……」
「母さんには俺がいてやらなくちゃ、なんて。どうして思えたのかな…。俺なんかいなくても、支えてくれる男はいるっつーの。な?」
「そんなこと…言わないで…」
眼鏡の奥の瞳が、すごく寂しそうで、悔しそうで、儚くて。
気の利いた言葉ひとつ出てこない。