第3章 近づく距離
眼鏡姿のユキくんは、確かに知的で素敵だ。
けれど、今目の前に映る素顔は普段のそれとは少し違う。
透き通るような色白の肌と、細く伸びた首。
一見繊細にも見えるのに、人の心を射抜くような鋭い瞳が色気を添えている。
一筋縄ではいかないような、女を惑わすような。そんな雰囲気。
「イケメンだろ?」
得意げな笑顔は、思わず赤面しそうなほど胸を揺さぶる。
いや "しそう" ではなく、今私は確実に赤面してしまっている。
「うん」
「…へ?」
キョトンとした顔で私を見たユキくんは、サッと眼鏡をかけてしまった。
「冗談に決まってんだろ?いいんだよ、そういうの」
「お世辞じゃないよ?本当にかっこいいと思ったから…」
「わー!もういい!」
照れてるのかな?
こんなこと、言われ慣れていそうなのに。
ユキくんってやっぱり可愛いとこあるよね。
淹れてきた紅茶を飲んで体を温めて、何となく陸上の話をして時間を過ごす。
でもさっき女子高生二人にからかわれたとおり、この部屋にはユキくんと私だけ…。
少し沈黙が流れると、何だか落ち着かなくなる。
「あ、わりぃ」
体勢を直そうとしたらしいユキくん。
床から一旦離した手が私の指先に着地して、すぐに離れていく。
「ううん…」
やだ…急に意識してきちゃった。
「なあ、アルバムねぇの?」
「アルバム?」
「舞とハナちゃんの子どもの頃、見てみたい」
ああ、アルバム!さすがユキくん!
そうだよ。こういう時のお約束じゃない!
「あるよ、もちろん!えっとねぇ…」
本棚から分厚いアルバムを引っ張り出して来て、ユキくんの前に広げる。
「これ舞?全然顔違わね?」
「まだ赤ちゃんだもんね。こっちなんてどう?」
「入園式?ああ、舞だわ!面影ある!お、遂にハナちゃん誕生?ハハッ、ねーちゃんって顔になってきたなぁ。次は…七五三か。って、何で泣いてんだよ」
「着物が嫌だったみたい」
「へえ。こんな可愛いの着せて貰ってんのにな」
幼い頃の私を眺めながら、声を弾ませて楽しそうにしてくれる。
それが無性に嬉しい。