第3章 近づく距離
「寛政大学陸上部の岩倉と申します。舞さんと葉菜子さんにはいつもお世話になってます」
お母さんの声はユキくんにも届いていたようで、礼儀正しく頭を下げてくれる。
「あらぁ。ハイジくんとこの?こちらこそ娘たちがお世話になって。舞、大事な選手が風邪なんて引いたら大変じゃない!上がってもらいなさい」
「そうだね。ユキくん、良かったら雨宿りしていって?」
「ああ…、助かるよ」
二人で自宅に入り、まず洗面所に案内する。
お父さんのTシャツとジャージに着替えてもらったあと、水を吸ったユキくんの服を洗濯機にかけた。
「洗濯と乾燥で2時間半くらいかな」
「悪いな」
「全然。あのね、実は今葉菜子の友達が来てて…」
そう話しながら入ったリビング。
葉菜子たちはスナック菓子とジュースをテーブルに広げて、つい最近流行った映画を鑑賞しているところだ。
「あれ?ユキさん!?」
「おう、ハナちゃん。お邪魔します」
突然のユキくんの登場で葉菜子は目を丸くさせる。
「誰誰っ?舞ちゃんのカレシ!?」
この友達というのは、私たち姉妹の幼馴染み。
旧知の仲かつこの子の性格的なこともあり、遠慮なく詮索してくる。
「え!キャー!そうだったの!?」
恋愛に疎い葉菜子は頬を紅潮させつつ声を弾ませた。
「違うよ。雨でびしょ濡れになっちゃったから寄ってもらったの。私たち部屋行くから、ごゆっくりね」
「密室に二人きりとかエッチじゃなーい?」
「キャー!」
キャピキャピはしゃぐ女子高生たちを背に、自室へ向かう。
「ごめんね。リビングはあんな感じだから私の部屋でいい?」
「ああ…。何か若ぇな」
微笑ましいものを見るかのように二人に視線を送り、ユキくんは私の後に続いた。
体が冷えてしまったから何か温かいものをと思い、私だけキッチンへ。
コーヒーや緑茶の脇に頂き物のダージリンを発見した。
先日のハイジくんとの会話で紅茶が好きだと言っていたことを思い出し、早速それを淹れて部屋へ戻る。
ユキくんは渡しておいたドライヤーで髪を乾かしているところだ。
「あ…」
思わず声が出た。
眼鏡、してない。
「ふう。よし乾いた。これ、サンキューな」
「ううん…。眼鏡外してるの、初めて見た」
「そうだっけ?」