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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第3章 近づく距離



「あ?舞じゃん」

「ユキくん」

その姿に気づいたのは、駅の構内を出て家に帰ろうとした時。
どうやら同じ電車に乗っていたらしいユキくんと鉢合わせた。
帰る方向は同じなので、おのずと自然に足並みが揃う。

「バイト帰り?」

「ああ。ハイジがバイトまで禁止とか言いやがって、今日で辞めてきたとこ。こんなのパワハラだパワハラ!」

経験者の方が少ない寛政大学陸上部のメンバー。
本気で箱根を目指すためには、バイトに使っている時間すら惜しいということらしい。
こんな風に文句を言いつつもちゃんとハイジくんの気持ちを汲んであげられるんだから。
ユキくんはやっぱり優しい人だと思う。


路地を抜けて、私の家がある商店街へ向かって歩く。

「何か雷鳴ってね?」

空を仰いだユキくんが呟いた。

「ほんとだ、聞こえるね。夕方から大雨になるってニュースで見たよ」

「マジ?今日天気予報チェックしてなかったわ」

まさにそんな会話をしていた時だ。
濃く分厚い灰色の空から、ポツポツと雨が降り始めた。

「急ぐか」

「大丈夫。私、傘持って、る…。……あれ?」

雨の予報を見ていたから、傘を持って家を出て来たはずなのに。
私の手にはバッグひとつしかない。

「やだ!電車に忘れてきちゃった!」

「ドジだな。つーか、おい!すげぇ降ってきたんだけど!」

最初は静かに地面を打っていた雨は、あっという間に勢いを増してシャワーのような豪雨へと変わる。

「急ぐぞ!」

「うん…!」

急かす声と共に、ユキくんは私の手を取り走り出す。
こんな状況だというのにそれを嬉しく思う私は、何て呑気なのだろう。



「はあっ、散々だな」

「びしょ濡れになっちゃったね…」

あとひと息で私の家というところだったのに、たった1分足らずで水をかぶったように全身濡れてしまう。
滑り込むように八百勝の店先に入り、顔を拭った。

「おかえり。派手に降られたわねぇ!早く着替えなきゃ!」

二人分のタオルを持って現れたお母さん。
その視線の先は、私の隣。
興味津々といった感じで耳打ちしてくる。

「どちら様?」


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