第19章 淡雪、舞う
コンビニまでの道のりを、並んで歩く。
横目に見える区営グラウンドには、桃の木々に花が色づいているのが見えた。
枝にぎっしりと花弁を添えるピンク色は、少し離れた場所から眺めるとフワフワ丸みを帯びていて、桜とはまた違った趣がある。
天気のいい日ならば、いつもここで老人会のメンバーがゲートボールをしているのが日常だ。
その姿がどこにもないところを見ると、どうやら今日の活動は中止になったらしい。
この街でユキくんと一緒に歩くのは、今日で一旦お預け。
二人で過ごす時間を、心に焼き付けておこう。
「あっという間だったなぁ、四年間。アオタケの連中とあんなに馴染めるようになるなんて、ここに来た頃には考えられなかったよ」
「しかも、箱根駅伝にチームとして出場するなんてね」
「そうそう!それが一番想定外!」
朗らかに笑いながら、ユキくんは空を見上げた。
「でも、すっげー楽しかった。みんなと走ることができて」
「うん」
「舞にも出会えたわけだし」
「うん…」
ユキくんに伝えたいことがある。
今日でお別れというわけではないけれど、私たちにとっては節目の日だから。
「私ね、"寂しい" って言葉にすることが、いけないことみたいに思ってたんだ。ネガティブで弱い自分を曝け出す言葉だって。
誕生日に一緒に星を見た時。"寂しい" って口にするのはこれで最後にしようと決めたの、自分の中で」
ユキくんは私に視線を移して、黙っている。
「でももう、言っちゃうね。あんなに素敵な時間だったんだもん。寂しいに決まってる。ユキくんのことも大好きだし、本当は離れたくない。寂しい」
「舞…」
「だけどね。みんなに…ユキくんに、いっぱい勇気をもらったから。すっごく幸せな時間を過ごせたから。寂しさに負けない自信がある。今は、私も頑張らなくちゃって、やる気満タン!」
ユキくんは私の手を取り、ギュッと握った。
想いを受け止めてくれたことがわかる。