第19章 淡雪、舞う
「野良犬みたいに人を寄せ付けなかった頃が、今となっては懐かしいな」
「いい奴なんだよなぁ、こう見えて!」
ハイジくんとニコチャン先輩に絡まれ、カケルくんは居心地悪そうにコップの中のお茶を啜った。
「ユキさん、妹がいるんだぁ」
「確かまだ小さいんだよね?小学校にも上がってないんだって!」
葉菜子とジョージくんが話題にしているのは、ユキくんの家族について。
以前のユキくんには、家族の話をすることに重苦しさが漂っていた。
けれど、今やその気配もない。
「写真見たんだけどね。ユキくんみたいに色が白くて、可愛いの」
「当然。うちの子が一番可愛い」
むしろ、段々妹への溺愛ぶりに拍車が掛かっている気さえする。
「ユキさんのモンペ感やべぇ!」
「もし妹ちゃんに彼氏できたらさぁ〜?ユキさんどうするぅ〜?」
「やめろ!考えたくねぇ!」
ユキくんを両隣から挟み、ジョータくんとジョージくんは面白半分に盛り上がる。
当の本人は冗談でも笑えない様子で、双子に噛み付いた。
お母さんとのわだかまりもなくなったみたいだし、家族と仲良さそうにしているユキくんを見るのは、とっても嬉しい。
「すまないが、誰か氷を買ってきてくれないかー?冷凍庫のものを使い切ってしまったんだ」
「あ、じゃあ俺が…」
ハイジくんが部屋を見渡しながらお使いを頼むと、カケルくんがすかさず腰を上げた…のだけれど。
「ユキと舞ちゃんは酔ってなさそうだな。頼めるか?」
カケルくんの申し出が見えていないわけないのに、それを華麗にスルーしてハイジくんは私たちを指名した。
「え?何でユキさんたち?」
「ユキさんの最後の一日だからね。舞さんと二人きりにしてあげようってことだと思うよ」
「ああ…、なるほど」
「気遣いが身に付いたのは、君にとっての進歩だけどね」
神童くんに優しく諭されたり、王子くんにイジられたり。
いつの間にかカケルくんは、アオタケの愛すべき後輩という立ち位置に収まっているらしい。
「行くか、舞?」
「うん」
ハイジくんの厚意はありがたく受け取って、私たちは買い物がてら、散歩に出掛けることにした。