第19章 淡雪、舞う
「今考えたって無謀な挑戦だったよな、箱根駅伝。でも夢のままでは終わらせなかったし、シード権まで獲得した。
舞のことだって離す気ねぇよ。寂しい思いなんてさせないって言えたらいいけど、たぶんそれは無理だ。だから舞が寂しさを感じる時間が一分でも少なくなるように、ちゃんと会いに来るから」
「ユキくんも寂しくなったら言ってね。会いに行く」
「ああ。俺たちはずっと離れない。俺が決めて叶わなかったことはない。だから、大丈夫」
「うん」
人の気配がないことをチラッと確認した様子のユキくんは、そのまま私の手を引き、抱きしめた。
その時。
頬にポツンと冷たいものが……
「あ…?雪か?」
「え…。ほんとだ。確かに今日は冷えると思ったけど。もう3月だよ?」
桃の花の淡紅色を目掛けてハラハラ落ちてくる、雪の粒。
地面に到達したそれは、すぐに土へ溶けてなくなってしまう。
「淡雪だな」
「淡雪?」
「春に降る雪のこと」
「へえ…」
しばらくの間、私たちは雪と桃とが作り出す不思議な世界を、ボンヤリと眺めた。
「 "また明日" はもうできなくなるけどさ。"また来週"、"また来月" って繰り返していけば、すぐに約束の日はくるから」
ユキくんとの、約束。
一緒に暮らそうと言ってくれた。
その日を思うだけで、心が満たされる。
大丈夫、私、頑張れるよ。
みんなから、強さを貰った。
努力することの素晴らしさも、仲間同士の絆も。
この一年の思い出は、私の一生の宝物だ。
みんなに出会えてよかった。
そして、ユキくん。
あなたに恋をしてよかった。
唇が触れ合う。
想いが重なるみたいに。
冬の終わりと春の訪れが交差する、午後のこと。
淡雪が舞う。
ひらひらと、白い花のように。