第2章 愛のオムライス
ランチもご馳走になったし、湯呑みの中の緑茶もあとひと口で飲み干せるだろう。
そろそろお暇しようかと、壁時計を見上げた時。
玄関の引き戸がガラガラっと鳴った。
年季の入った竹青荘の廊下がギシッと軋む。
近づいてきた足音の主は台所の前で止まり、これまた年季の入った暖簾を捲り上げた。
「ユキか。おかえり」
「おう…。何してんの?」
ユキくんは驚いたように直立不動となり、私たちを瞳だけ動かして交互に見る。
「お邪魔してます。あと、お昼ごはんをご馳走になってました」
何となく姿勢を正しペコリと頭を下げる。
「昼飯?」
「うん」
「…二人で?」
何かを探るようなユキくんの物言いに、ハイジくんが言葉を繋いでくれる。
「朝市行った時に舞ちゃんたちを誘ったんだよ。ハナちゃんは用事があって来られなかったんだ。昼飯は?食ったんだろ?」
「ああ、外で済ませた」
「舞ちゃんが作ってきてくれたクッキーがあるぞ。ユキの好きな抹茶味。食うか?」
「…食う」
「じゃあ手洗ってこいよ。ユキの分もお茶淹れとくから」
「はいよ」
短く返事をしてユキくんは洗面所へ向かった。
その間、私の隣の席には湯気の立つ緑茶がもうひとつ置かれる。さっき取り分けたクッキーも。
ハイジくんは私の湯呑みにもお代わりを注いでくれた。
「まさか舞がいるなんて思わねぇからビックリしたわ」
「ごめんね。急にお邪魔して」
「いや。それはいいんだけどさ。クッキーってこれ?」
「うん」
「見た目は美味そうだけど。だいじょーぶー?食えんの?」
ニヤニヤからかってくるユキくんの目の前から、お皿を取り上げる。
「意地悪言う人の分はキングくんにあげることにする」
「なんでキング!そんなことしたらあいつ、舞が自分に気があるって勘違いするぞ!なあ、ハイジ!?」
ユキくんの手によってすぐさま元の場所へ帰っていくクッキー。
会話を振られたハイジくんはと言えば、ただボンヤリユキくんを眺めていた。
「あ?ハイジ?どうした?」
「ああ…。お前ら、いつの間にそんなに仲良くなったのかと思ってな」