第16章 6区
山を下るランナーの脚には相当な負荷がかかるのだと、散々見聞きした。
足底の皮膚が剥けるのも珍しくないと、事前の情報として知っていた。
けれども、こんなにも痛々しい有り様になるなんて思いもしなかった。
「ああ…ほんとだ。いてぇな…」
「そんだけ!?」
「応急処置の用意してきたから。靴、脱いで」
リュックを下ろしてユキくんのそばに片膝を着いた。
消毒に絆創膏に包帯を取り出して、素足になるのを待つ。
靴と靴下を脱いだユキくんの足は、マメが潰れ、何ヶ所も皮膚の表面が剥離していた。
雪道を走ってきたせいでしっとり濡れており、傷を負っていない箇所にまで滲む血液が尚更痛々しかった。
「ダイジョブ…?ユキさん…」
「いってぇよ。つか何で涙目なんだよ」
「だって…だってさぁ…」
ジョータくんとユキくんのやり取りを聞きながら、足を拭いて丁寧に応急処置をした。
ジョータくんが涙目になる気持ちがわかる。
私だって今、堪らなく泣きそうなのだから。
こんなにも傷だらけになりながら走っていたんだ。
普通これだけの怪我をしていたら、歩くのすら思うようにはいかないはず。
それでもユキくんは、走り抜いた。
「やっぱり、私が言ったとおりだったね」
「え?」
「忘れちゃった?私の彼氏は世界一かっこいい、って」
包帯越しの足にそっと掌を当てると、ユキくんは私を宥めるみたいに手を包んでくれた。
「ホントだよ。すっげぇカッコイイよ、ユキさん」
「そう思うならもっと先輩を敬え」
声を詰まらせるジョータくんの頭に、ユキくんはふわりと手を乗せた。
口ぶりはいつものユキくんだけど、自分の身を心配してくれる後輩に対しての優しさを垣間見た気がした。
「そうだ。ジョータくん、神童くんに電話してきてくれない?きっと連絡を待ってると思う」
「わかった!あ、ついでにハナちゃんにも!」
「うん。よろしくね」
いつもの調子に戻ったジョータくんは、跳ねるように立ち上がると私たちから離れていった。
個人的な事情だ。
ユキくんのことだから、あまり聞かれたくはないかもしれない。
二人きりになったこのタイミングで、話を切り出す。