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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第16章 6区




愛おしくてどうにかなりそうなくらい、大切な存在。


舞、ありがとう。


正直、舞がいなかったらここまでできたかどうかわからない。


感謝の気持ちが胸を満たす。


舞が、みんなが、この先で待っている。


さあ、ここからだ。



山を下り終え、俺の足は平地を踏みしめた。
ここが寒いのか寒くなのか、よくわからない。
雪の箱根なのだからきっと冷えるのだろうとは思う。
実際、沿道で観戦している人たちはダウンにマフラー、帽子といった防寒具で身を包んでいる。
けれど、今の俺の身体は全くその必要のないほどに熱を宿していた。

先程までのスピードは、やはり出ない。
急に失速したような気がする。
ハイジの言ったとおりだ。
ひたすら脚が重く、頑張って一歩を踏み出している、そんな感じだ。
タイムを確認してみるが、平地と同等の数値を示している。
後ろから他チームの選手が迫ってくる様子はない。

体感も大切だが、数字も見るよう心がける。
進みが悪いと感じるのは感覚が麻痺しているからだ。
大丈夫、行ける。
ただ、決して楽ではない。
まるで脚に錘でも付けているみたいだ。
一歩一歩を必死に踏み出し、小田原中継所を目指す。


次の走者は、ニコチャン先輩。


その世界に魅せられながらも、一度は長距離を諦めた人。
陸上に戻ってきた先輩は何だかんだ言っても幸せそうに見えた。
出会ってから4年経つが、これが先輩の本来の姿なのかもしれないとさえ思えた。
伸ばしっぱなしの髪の毛に無精髭、加えてヘビースモーカー。
そんな精気の乏しい先輩しか知らなかったから、秘めていた情熱には驚いたものだ。
好きなんだろうな、走ることが。
先輩に託せば、きっとやってくれる。


残り2kmを切った。
そろそろ舞がいる地点に辿り着く。


「ユキくーんっ!!」


疲労で蓄積された体と心に染み入るような声が、すぐそこで待っている。


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