第2章 愛のオムライス
ケチャップを取り出したハイジくんが、蓋を開けて卵の上に何か書き始めた。
「よし!」
すごく満足そうな笑顔。
ケチャップで書かれたそれを覗いてみる。
"ハコネ!"
ハコネ…?
箱根…。箱根…!?
「箱根って!ハイジくん…、あははっ…!」
全くの予想外だ。
でもすごくハイジくんらしくて、思わず声を上げて笑ってしまう。
もう、こういうところは天然なんだから!
ハイジくんはキョトンとした顔で私を見つめてくる。
「可笑しいか?じゃあ何が正解なんだろう」
難しい表情をするハイジくんにまた吹き出しそうになり、慌てて口を塞いだ。
これ以上笑っちゃダメ!ハイジくんは真剣なんだから!
「正解とかないよ。でも無難にハートなんかはよく見かけるかな」
インスタやレシピのアプリで見かけるオムライスを想像して、そう答える。
「ハートか!だったら舞ちゃんの分は…」
卵の真ん中に描かれたのは、大きなハート。
「出来たぞ!愛情たっぷりオムライス」
とびきりの笑顔でそんなことを言われたら、少なからず胸が鳴ってしまう。
アオタケのみんなにも毎日こんな風にご飯を作っているんだよね。
きっとハイジくんのことだから、それを苦労とも思わずみんなのためを思って。
本当にすごいな、ハイジくんは。
「ありがとう。すごく美味しそう」
「温かいうちに食おうか」
「うん」
二人で向かい合って座り、手を合わせる。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
鮮やかな黄色い卵の端っこをスプーンで掬ってひと口頬張った。
「美味しーい!」
「そう?良かった」
愛情たっぷりオムライスも、さっき味見させてくれた唐揚げも、コンソメスープも。
ハイジくんとおしゃべりする合間にも次々箸は進み、あっと言う間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした。本当に美味しかった!洋食屋さんのランチ食べた気分」
「ははっ、それは褒め過ぎだ」
「そんなことないよ。ハイジくん、彼女にもご飯作ってあげたりしたことあるの?」
ご飯のお礼に私が食器を洗い、ハイジくんが拭き上げる。
布巾を持つ手を束の間止めたハイジくんは、ポツリと呟いた。
「今日が初めてだよ。女の子に料理を作ったのは」