第14章 スタートライン
昨夜のカウントダウンのあとも、アオタケのメンバー全員でここに来て必勝祈願をしたらしい。
目の前に列を成していた参拝客が一人、また一人と減ってゆき、私たちの番になった。
お賽銭を入れて合掌しようとした時、ユキくんがポケットから何かを取り出す。
10人全員に贈られた、あの御守りだ。
「夕べはうっかり忘れててさ」
両手の間にそれを包み、手を合わせる。
ユキくんもみんなもやれるだけのことはやってきた。
ここまできたら私ももう、神頼みくらいしか思いつかない。
ハイジくんは、シード権を獲るつもりでいると言った。
"頂点を味わおう" とも言った。
シード権獲得のためには、20大学中10位以内に入る必要がある。
箱根に照準を合わせて何年も鍛錬を積み重ねているチームと競わなくてはならない。
その厳しさを理解した上でのハイジくんの目標だ。
既に決定している区間エントリーは、勝つための采配。
各々に内なる目標があるのかもしれない。
私にはそれはわからないけれど、願いはひとつ。
どうか、みんなが無事に走ることができますように―――。
「よし。んじゃあ次はどうする?」
「あ、おみくじあるよ」
「ちょっと待て。それはやめとこう」
「え?何で?」
「凶なんか出たらヘコむだろ」
「へぇ…。そういうの気にしなさそうなのに」
「悪いか!繊細なんだよ、俺は」
「別に悪くないよ。じゃあ…、あ!甘酒とおしるこだって」
辺りには甘い匂いが立ち込めていて、その出処はどうやら目の前のテントの下、火にかけられた大鍋から漂っているようだ。
「俺、貰ってくるわ。どっちがいい?」
「両方。半分ずつ分けっこしよ?」
「オッケー」
お目当てのものを一杯ずつ貰ってきてくれたユキくん。
境内を裏手に回り、少し歩いた先の人気のない場所で休憩することにした。
「人が多いから疲れただろ。足、痛くね?」
「うん、大丈夫」
「着物汚れねーか?」
「ハンカチ敷いたから大丈夫だよ」
履きなれない下駄だから少々の疲労感は仕方がない。
それよりも、私を気遣ってくれるユキくんの優しさにしみじみと幸せを感じる。
温かい甘酒とおしるこで体が温まってきた頃、スマホを取り出したと思ったユキくんが私に向けてシャッター音を鳴らした。