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淡雪ふわり【風強・ユキ】

第14章 スタートライン



元旦の朝は、風冴ゆる凛とした空気も相まって特別なものに感じられる。
新しい年の幕開けだからというのもあるけれど、この格好をしていると、立ち居振る舞いにも気を配らなければと背筋が伸びる。

ユキくんとの約束を楽しみにしていた。
元日の商店街は軒並み休日で、普段に比べたら静かなものだ。
ちらほら行き交う人々の目的は買い物のためではなく、ここから15分ほど歩いた先にある神社への参拝がほとんどだろう。

到着のLINEが届き店の正面まで降りていくと、コートのポケットに両手を差し入れて白い息を吐き出すユキくんの姿が見えた。

「明けましておめでとう、ユキくん」

「おう、おめで…と…」

「今年もよろしくね」

「……こちらこそ、ヨロシク…」

新年の挨拶は交わしたものの、ジッと私を見つめたまま何も言ってくれない。

(あれ?無反応…?)


おばあちゃんの家は昔呉服屋を営んでいたこともあり、お正月にはいつも「小紋」と言われる着物を着せてくれる。
ユキくんと初詣に行く話をしたら、孫娘のために残しておいた小紋の中から似合うものを見繕ってくれた。

生成り地に紅梅色の梅模様。
半襟と帯はお揃いの朱色。
羽織は春に芽吹く若葉のような、淡い緑。

着付けの最中なんて、「いいところのお嬢さんに見えるわよ!明るい色が映えるわぁ!」と私より浮かれていた。
あまりにも煽てるものだから私もその気になってしまったけど。
実は微妙なのでは…?

「おかしいかな…?着物…」

「は?いやいや、おかしい訳ねーじゃん!つーか、完全に不意打ち…」

「…不意打ち?」

「着物って見慣れねぇっていうか、かなりレアっつーか…浴衣とはまた別物じゃん?…あ、あれだ!大和撫子?うん、そんな感じ…」

「褒めてくれてると思っていいの?」

「思っていい…」

「よかった」

馬子にも衣装だとしても、とりあえず好感触のようで安心した。

「ユキくんも着物似合うと思うよ」

「そっかぁ?浴衣すら着たことねぇな」

それなら夏には浴衣デートがしたいな。
なんて思うものの、ユキくんにはこれから司法修習が待っているからそんな余裕はきっとないと思う。
願望は胸に留めておくことにした。


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