第14章 スタートライン
アオタケの10人のことを "仲がいい" という言葉だけで括るのは何だか違う気がする。
愚痴も零すし、割と無遠慮に言いたいことを口にしているようにも見える。
それでいて上手く調和がとれているのは、趣味も価値観も思考もバラバラな10人がお互いを否定せず認め合うことができる人たちだからだ。
人数が多い分歪みになる要因だって増えそうなものなのに。
みんな心が豊かで、思いやりに溢れている。
ムサくんの気持ちは私にもわかる。
みんなといると居心地がいい。
家族のような温かさを感じる理由はそこだと思う。
心地いいからこそ、この時間がいつまでも続いて欲しいと願ってしまうのだ。
ムサくんの言葉は染み入るように琴線に触れ、時折モヤがかかる私の心にそっと寄り添ってくれる気がした。
遠くから、除夜の鐘の音が聞こえてくる。
毎年大晦日はリビングのこたつを家族4人で囲み、のんびりと時間を過ごす。
自営業ということもあり、お盆と年末年始は両親が休息できる貴重な時間だ。
年越し蕎麦を食べ終えてからは、緑茶を啜ったりみかんを摘んだりしながらボーッとテレビに目を向けていた。
毎年恒例の歌番組とお笑い番組が、家族の誰かの手によって交互に切り替えられ、映し出されている。
頃合いとしては、もう終盤。
あと20〜30分で番組終了だろうか。
アオタケの練習に参加するようになってからは、すっかり朝型の生活に慣れてしまった私。
日付が変わるまで起きていることの方が珍しくなり、そろそろ瞼が重い。
もう潔く寝てしまおうか。
いやいや、年に一度しかない年越し。
あとひと息我慢して、年が明ける瞬間に立ち会いたい。
二つの欲求のせめぎ合い。
しかしそろそろ本当に、眠い…。
もういいや。
明日はユキくんと初詣に行く約束だし、その前におばあちゃんの家にも行かなければ。
押し寄せる睡魔に天秤が傾きそうになった時。
『今年も残すところ、あと5分を切りました!』
テレビから届いた、番組司会者の弾んだ声。
あと5分か…
それくらいなら頑張って起きていようかと、思い直す。