第14章 スタートライン
後援会のポスターには、寛政大学の10人が青空をバックに走る姿が写っている。
私たちの進行方向には、その一枚のポスターとスマホを見比べながら佇んでいる女の人が見えた。
例えポスターが目に留まったとしても、数秒もすればそこから立ち去ってしまう人が大半。
それなのにその人はそこから動く気配もなく、スマホに何かを打ち込んだかと思えばため息をつきながら宙を仰ぐ。
「…?」
ハイジくんと顔を見合わせた。
もしかして、後援会の入会希望…?
私が迷っている間にもハイジくんが歩み寄り、女の人に声をかける。
「あの。僕たち駅伝の関係者なんですけど、何か?」
驚いたようにこちらを見るその人。
一瞬沈黙したものの、意を決したような第一声が響く。
「選手の皆さんに、お渡ししたい物があって」
そう言って、バッグから何かを取り出す。
手にしてるのは紫色のふくさ。
荷物を持ってくれているハイジくんに代わり、私がそれを受け取る。
「拝見してもいいですか?」
「はい」
包みを開くと中から小さな白い紙袋が現れた。
この近所にある神社の名前が記されていて、数は選手の人数と同じだけ。
これは……
私の手元を覗き込んだハイジくんもピンときたようで、その人に尋ねる。
「御守り、ですか?」
「…ご迷惑でなければ」
「迷惑だなんて。とんでもないです」
「私、駅伝ファンなんです。頑張ってください」
女の人は私たちに会釈をして立ち去ろうとする。
「ありがとうございます!良かったらお名前、教えていただけませんか?」
「あ…。名前は…すみません…」
焦ったように小さく頭を下げる姿にハイジくんもそれ以上追及することはできず、私たちは改めて丁寧にお礼を伝えた。
「応援しています」
去り際に優しく微笑んだその人は、真冬の雪に溶けてしまいそうな、白い肌をしていた。
「名前、何で教えてくれなかったんだろうな」
「うーん。ただ単に遠慮して…とか?こっちに気を遣わせないためじゃない?」
「そうだろうか。何かあの人…」
「何?」
「いや…。ありがたいよな、こうして応援してもらえて」
「うん。きっとみんなも喜ぶね」
沢山の人たちが寛政大学の活躍を見守ってくれている。
それを目の当たりにするたび、箱根本番がすぐそこまで迫っていることを実感した。