第14章 スタートライン
数日後、大きなビニールバッグを肩にぶら下げつつ家に向かう。
「車使えば良かったなぁ…」
午前中、まず向かったのはコインランドリー。
洗濯、乾燥をしている間にクリーニング店に寄り、うっかりシミをつけてしまったコートを預ける。
次に銀行でお年玉用のお札を新札に両替えし、そのあとスーパーで昼食を購入。
頃合いを見てコインランドリーに戻り、フワフワに乾燥した洗濯物を回収。
年末の忙しい時だというのに自宅の洗濯機が寿命となり、新しい物の搬入までにあと3日はかかるのだ。
こんな時のコインランドリーは本当に助かるけれど、貯まりに貯まった家族4人分の洗濯物は意外と重い。
引っ掛けたバッグの紐が肩にずっしり食い込むのを感じつつ、車を利用しなかったことを少し後悔しながら歩いていた。
「舞ちゃん?」
ノロノロ歩きを引き止めた、誰かの声。
振り返ったところにはハイジくんの姿があった。
「重そうだな。持とうか?」
「え?いいよいいよ、大丈夫。ハイジくんだって何か持ってるし」
「じゃあ、俺のと交換」
ハイジくんは洗濯物の入ったバッグとスーパーでの買い物袋をヒョイと持ち上げ、代わりに私の手の中に小さなビニール袋を渡す。
そこからチラリと見えるのは正月飾り。
正直言って、重さなんてさほど感じない。
人に気を遣わせずにこういうことができる人なのだ、ハイジくんは。
「ありがとう」
厚意は素直に受け取った。
「ハイジくんも買い物?」
「うん。あとは八百勝さんと肉屋さんで夕食の材料を買って終わり」
「毎度ありがとうございます」
「こちらこそ。鍋が美味い季節だからなぁ。また食べにおいでよ。みんなも喜ぶし」
「うん」
他愛もない雑談をしながら商店街に差し掛かる。
入り口にあるアーチには
"祝・寛政大学長距離陸上部 箱根駅伝出場!!"
と書かれた垂れ幕。
店先に同様のペナントやポスターを掲げてくれている店舗も多い。
予選会終了後、ここ一帯はすっかり応援ムードに包まれている。
新聞に取り上げられたのはもちろんのこと、元々テレビ取材も受けていたため、地元では知らない人がいないくらいだ。
後援会への入会者も急激に増えたようで、駅伝当日の移動や宿泊費に当てられそうだと、マネージャー業務を補佐する神童くんもホッとしていた。