第13章 予選会
王子くんが救護テントで休んでいる間に、私たちも結果発表のある広場まで移動する。
アオタケのみんなはブルーシートを敷いた上で体を投げ出し、クールダウンしている最中だ。
「お疲れ様。ユキくん」
「なかなかキツかったわ。つーかさぁ、ハイジとカケル以外誰もタイムとってねぇんだよ。ったくよぉ」
「アオタケのみんならしいね」
「まあそれは置いといて。最後に舞とハナちゃんの声が聞こえたから踏ん張れた。応援ありがとな」
「私たちにできることはそれしかないもん。具合は悪くなさそうだね。よかった」
「おう」
ユキくんはいつもの調子でボヤいたり、私たちを労ってくれたり。
予選会が終わったからといって普段と特別変わりはないけれど、心なしか晴れやかな表情が印象的。
そんなユキくんとは対照なのが…
「ハイジくん。大丈夫?」
手術跡が残る右膝をアイシングするハイジくんに、恐る恐る声をかけた。
「やれるだけのことはやったよ」
「…うん。お疲れ様」
本当は、アクシデントに見舞われた後のことを確認したかった。
患側の脚で着地したあと、痛みは増していないか。
あの瞬間は大丈夫でも、ゴールまでに何らかの異変はなかったのだろうか。
ハイジくんは脚のことには一切触れない。
だから私も、それ以上は何も聞かなかった。
その瞳に宿るのは、ただ静かに結果を待つ覚悟の光。
「アイスバッグ、交換しよっか?」
「ああ。ありがとう」
せめてアフターケアの手伝いを。
クーラーボックスから氷を取り出し、新しい氷嚢をハイジくんに手渡した。
そんなやり取りをしたあと、どのくらい経っただろう。
練習後の光景によく似た雑談は徐々に勢いを失くし、ポツリポツリと交わされる会話も静かなもの。
全員をゆっくり見渡したハイジくんが、ようやく口を開く。
「みんなの着順を平均すると、80位台半ばと言うところだろう。正にそのあたりが予選通過のボーダーラインだ」
今まで誰一人諦めず、毎日毎日走ってきた。
明日、明後日、そしてその先の自分の力になると信じて。
もちろん日々を積み重ねてきたのはアオタケのみんなだけではない。
今日レースに出場した、全ての選手が同じ。
順位というものがつく以上、報われる者、報われない者と命運は真っ二つに別れてしまう。