第13章 予選会
声高なアナウンスと周囲のどよめきで、この事態がいかにイレギュラーなことなのかが窺える。
無名の大学の一年生が、常連校の有力選手たちを容易く抜き去って行く様は快進撃と言える。
カケルくんが他の選手を引き離してコースを折り返した。
あとに続くハイジくんも確実にペースアップしている。
「やったーっ!カケルくん!!」
「いいぞぉーっ!!カケル!!行けぇーっ!!」
『蔵原が止まりません。寛政大学一年、蔵原走が今、箱根2区の怪人ヨハナ・イワンキとデットヒートを続けています』
イワンキ選手は箱根駅伝常連校の留学生で、花形と言われる2区の区間新記録を出したこともある。
そこまでの選手と競り合いながらレースを繰り広げられるのだから、カケルくんの実力は私の想像など遥かに上回るに違いない。
うちのチームの中で最初にゴールを切るのは、まず彼になるだろう。
第一集団以降の動向はなかなかスクリーンに映し出されないため、ユキくんたちがどの位置にいるのかはわからない。
けれども私たちは、10人全員が最後まで走り抜くことを信じてる。
直に声援を届けたい。
「葉菜子、ゴールが見えるところまで行こう」
「うん!」
一般道を走り終えた選手たちは最後に公園内に入ってくる。
観客だけではなく、今大会の関係者やテレビカメラなどが待機する、一層混雑したゴール付近の通路を掻き分けた。
ゴールでのタイム計測は葉菜子に任せ、私はそこから50m程手前で応援に徹することに。
運命の分かれ道である今日は、練習の時とは走る意味が大きく違う。
いくら体が悲鳴を上げようとも、無理を承知で前へ前へと進んでいるはず。
どうか、無事に辿り着いて欲しい。
トップである留学生選手が二人、目の前を走っていく。
「すごい…。多分1時間切るスピードだ…」
ストップウォッチで確認した数字からして恐らく私の見立て通りに行くと思う。
緩やかなカーブの向こう側から次に姿を現したのは、カケルくんとイワンキ選手。
10km地点を過ぎた辺りから両者譲らずほぼ並走している状態だ。
「カケルくーん!!ファイトーッ!!」
きっと私の声なんて届いていない。
まるで短距離走の勢いで、風のように駆け抜けていく。