第13章 予選会
ここから先は会場内に設置された大型モニターでレースを観戦する。
『今回は全49大学581人の選手が参加しています。各チームの上位10人の合計タイムで競い、49大学のうち上位10校が、年明けの箱根駅伝本選に出場することができます。今回もやはり留学生優位は変わりありません』
49大学に、581人……アナウンサーの説明で改めて知る。
それだけの選手たちが皆同じ目標を掲げ、この場所にいるということを。
体の不調や転倒で棄権した選手も、ここに来るまでに既に数人目についた。
上位のひと握りしか掴むことが出来ない、大半が夢に敗れていく厳しい世界。
雨足はスタートの頃よりも強くなってきており、スニーカーがじんわりと冷えていく。
雫が滴る前髪を指で撫で、レインコートのフードをもう一度目深に被り直した。
程なくしてお父さんや商店街の人たちも合流した。
カメラは先頭集団を捉え、その中にはカケルくんも含まれる。
みんなで歓声を上げて喜んだのも束の間、ハイジくんの姿が見当たらないことが気がかりだ。
「ハイジさん、カケルさんの位置からそんなに離れてなかったよね?やっぱり脚に負荷がかかっちゃったのかな」
「まだわからないよ。カケルくんがペースを上げただけかもしれないし」
「いた!ハイジだ!第一集団、カケルの後方だ!」
お父さんの指差す先、画面の端の方には確かにハイジくんの姿が映し出された。
いつもどおりのフォーム。
先程よりストライドを大きくしてアスファルトを蹴っていく。
予期せぬアクシデントに内心気が気ではなかったので、ホッと胸を撫で下ろした。
突如画面は切り替わり、喜久井大、東体大の選手が追い上げて行く様子が見える。
『10キロ通過と同時に、示し合わせたかのように第一集団が動き始めました。去年シード落ちを味わった2校が頭ひとつ抜け出そうとしています』
そうか、もうすぐ折り返し。
選手たちがペースを上げるタイミングだ。
ここまで抑え気味だったけれど、そろそろカケルくんも上がってくる頃…。
『ん?ちょっと待ってください…。寛政大学…寛政大学一年の蔵原走です。寛政大学一年の蔵原走が食らいついて…いや、出ます!スパートをかけた2校を上回り、一気に第一集団の先頭に出ました。折り返し地点目前、蔵原が抜きました!』