第12章 共に見る夢 ―ユキside―
遂に予選会は2日後に迫る。
夕方の練習を終えたメンバーはシャワーを浴びたあと、部屋でゆっくり過ごしている。
俺と舞、キング、神童は、台所のローテーブルに予選会会場の見取り図を開き、経路の最終確認。
「給水場所は把握しておいた方がいいですよね」
「何か給水って緊張するよなぁ」
「舞は駐屯地出口の地点のタイム計測頼む。次の地点にはハナちゃんに立っててもらうか」
「わかった。伝えとくね」
いよいよやって来る、運命の分かれ道。
もし転倒したら。
急なアクシデントに見舞われたら。
一人、欠けてしまったら―――。
不安な要素は尽きない。
けれど誰もそれを口にはしなかった。
言葉に出したら、そのままプレッシャーの渦に飲み込まれてしまいそうで。
ハイジは前々夜祭をしようと提案し、八百勝さんが差し入れしてくれた野菜で料理に励んでいる。
そばにあるダイニングテーブルには、出来上がった料理が所狭しと並べられていく。
"前々夜祭" とか語呂も悪いし中途半端なのだが、それも仕方がない。
まさか前日にたらふく飲み食いするわけにはいかないので、今晩、アオタケお馴染みの宴会をすることになったのだ。
打ち合わせが一段落つき、さて双子の部屋に料理を運ぼうかという頃、チャイムの音が鳴った。
「俺、出るわ」
腰を上げ玄関に向かい、引き戸を開く。
そこに立っていたのは…
「こんばんは」
酒屋の豪ちゃんだ。
「…こんばんは。何か?」
先日の揉め事を蒸し返すほど子どもではない。
冷静に、その瞳と真っ直ぐ向き合う。
「……この間、は、」
目つきにいつもの鋭さは見受けられないまま、静かに放たれたひと言目。
途切れた隙間に横槍は入れず、そのまま待つ。
「あれ、甘利さん?どうしたんですか?俺、配達頼んでませんよね?」
待つ…つもりでいたのに、何か言いかけた声を呑気な口調でハイジがぶった切る。
「あー…、はい。そうなんすけど…」
少し視線を外し俺たちに背を向けたかと思えば、豪ちゃんは "甘利酒店" と車体に書かれたワゴン車から段ボールを運んできた。
「ビールの差し入れです。予選会が終わったら、皆さんでどうぞ」